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すあしの恋―第21話~最終話を一気読み!

2014年3月1日

読み逃した人はこちらからお読みください!

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私は、東京に住むアラサーOLの佐藤早紀。恋はすっかりご無沙汰だった私にも、もしかしてモテ期が到来したかも!?
私の恋物語を描く『Web小説・すあしの恋』の後半部分を一気読みできるようにしました。読み逃した人はこちらからお読みください!

第21話 村沢との再会に胸がざわつく早紀

 「ねえ、村沢清一郎って、どんな感じ?」

 奈津はサラダの乗ったトレイを社員食堂のいつものテーブルに置きながら尋ねた。

 「どんな感じって?」

 サキも、いつものソバと豆腐の乗ったトレイをとなりに置きながら問い返した。

 「同じ部署で働いてるんでしょ? 社内の女子で、色めきたってる子、かなりいるみたいだよ。あの人、かっこいいもんね」

 「妻子持ちのおじさんだよ」

 早紀は、わざと興味なさそうに答えた。

 「あれだけ仕事ができて、偉そうなところが少しもなくて、誰にでも優しくて、大人で、なのに、どこか少年ぽいっていうか……」

 早紀は奈津をにらんだ。

 「あんた、まさか今度は村沢さん、狙ってるんじゃないでしょうね!」

 奈津はサラダにかかったベーコンの切れ端をフォークの先ですくい取りながら言った。

 「残念だけど、今回はパス!」

 「どうして?」

 「しばらく、不倫もおじさんもお休みする。前回の件で、ちょっと疲れたから」

 「そうなんだ」

 早紀は無関心を装ったが、内心、ほっとした。

 「村沢清一郎には、仕事のうえで興味があるの」

 「仕事で?」

 「うちの部でも、彼の話でもちきりよ。いったい、なにしに本社に来たのかって」

 「営業1課のサポートでしょ?」

 「村沢清一郎は、アメリカ支社のエースだよ? 44歳の若さで、次のアメリカ支社長のイスがほぼ確定って言われてる人材を、本社とは言っても、不振にあえいでるうちの営業1課の立て直しなんかに、あっちの社長が出すわけないって、みんな言ってるよ」

 〈そっか。村沢さん、アメリカでも評価されてるんだ〉と早紀は自分のことのように嬉しかった。

 12年前、早紀が入社したとき、村沢は32歳の若さで、すでに営業1課をリードする存在だった。

 研修期間中の指導係を担当するはずだった若手社員が体調不良で長期休暇に入ると、彼の代役として、村沢が急きょ、早紀の面倒をみてくれることになった。

 以来、アメリカ支社に異動するまでの2年間、早紀はずっと「憧れの先輩」として、村沢をたより、慕った。

 だから、村沢が営業1課にやってきてから今日までの3週間、早紀は、石坂仁のことを思い出さずにすむほど、楽しく働くことができた。

 「そんなの、いつものナツの情報網使えば、カンタンにわかるんじゃないの?」

 「村沢清一郎の件だけは、どうも勝手がちがうんだよね」

 「勝手がちがう?」

 「お偉いさんたち、えらく口が固いし、アメリカ支社からは、なんの情報も引っ張れないし……やっぱり、あの噂、本当なのかもね」

 「噂って?」

 「引き抜きよ」と奈津はベーコンを脇に寄せながら答えた。

 「引き抜き?」

 「近いうち、アメリカでの販売体制を大幅に強化する動きがあるの。その計画に必要な人材を引っ張っていくために、彼がじきじき、見極めに来たんじゃないかって」

 〈もしそうなら、村沢さん、長くは日本にいないんだ〉

 早紀は悲しくなった。

 奈津はいたずらな目で早紀を見た。

 「サキ、あんたも狙われてるかもよ!」

 早紀はソバをのどに詰まらせながら「そんなわけないでしょ?」

 「わかんないよ。プライベートは失敗だったけど、ビジネスでは、あのイシザカジンを口説き落として、大きな案件をまとめたんだから」

 「その話はやめて」

 早紀は、慎重に豆腐を箸でつまみ、口に運んだ。

 「まだ、メール、来るの?」

 奈津の問いに、早紀は小さくうなずいた。

 「電話は来ないし、皇居ランにも来てないみたいだけど、メールは相変わらず、3日に1度くらいのペースで送ってくるよ」

 「どんなこと、書いてるの?」

 「わかんない。最近は読まずに消してるから」

 「罪な女だよね。あんたのその裸足で走り回るような無邪気な魅力にかかったら、村沢清一郎もイチコロなんじゃない?」

 奈津はわざと意地悪な口調で言った。

 でも、早紀にはわかっていた。

 村沢が早紀を女としては見てくれないことを。

 それは、10年前、はっきりと証明された。

*    *    *    *    *    *

 村沢がアメリカ支社に異動になると聞かされたとき、早紀は動揺した。

 しかも、村沢のイメージにはまったく合わないことに、24歳の受付嬢との「デキちゃった結婚」というオマケまでついていた。

 研修期間を終え、営業アシスタントに配属されてからも、早紀は、ことあるごとに、村沢に相談に乗ってもらった。

 当時交際していた彼氏との恋愛の悩みにも、村沢は真摯に耳を傾け、慰め、励ましてくれた。

 だから、妻より先に単身アメリカに向かう村沢を見送ったとき、早紀は、自分でも驚くほど大胆な行動に出た。

 夜の空港の屋外テラス、発着する旅客機の光を眺めながら、早紀は告白した。

 「私、村沢さんのこと、ずっと好きでした」

 上目づかいに見つめると、村沢は困った顔で早紀をみつめ返した。

 「最後の思い出に、キスしてください」

 早紀はわずかに顔を上げ、目を閉じた。

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Profile
佐宮圭(さみや・けい)
作家。1964年兵庫生まれ。早稲田大学第一文学部人文学科卒業。アパレルメーカーの営業、花屋の社員を経て、1993年3月、フリーランスの編集兼ライターとなる。子ども向けの科学雑誌や『文藝春秋』『週刊朝日』などで活躍。2010年、『さわり - 女として愛に破れ、子らを捨て、男として運命を組み伏せた天才琵琶師「鶴田錦史」その数奇な人生』で第17回小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞。
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