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夜WOL小説・すあしの恋―最終話

2014年2月28日

いよいよ憧れの東京マラソンへ!

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私は佐藤早紀。恋愛ご無沙汰OLだったのに、いろいろな出会いが訪れて、急展開! 私の恋愛物語は今回が最終話です!


(前話はこちら

 2月23日午前9時7分、超高層ビルが林立する新宿副都心。

 高さ240mを越す都庁第一本庁舎の前から第二庁舎を巻き込むように曲がり、中央公園まで続く6車線の車道は、3万6000人のランナーたちで埋め尽くされていた。

 スタート地点の先頭には、国内外から招待されたトップランナーたちが並んでいた。

 後ろには、実業団や大学の選手、自慢のランニングウエアに身を包んだ市民ランナーが続き、なかには、派手なフェイスペイントやおちゃめなかぶりもの、仮装大会を思わせる着ぐるみ姿の参加者もいた。

 みんな、「東京マラソン2014」が始まる瞬間を待っていた。

 早紀は、アキレス腱を伸ばしながら言った。

 「あの皇居ランから、3週間も経ったんだね」

 涼介は、軽く屈伸しながら答えた。

 「ああ、あっという間だったな」

 そのとき、高層ビルの谷間に、アナウンスが響いた。

 「位置について……」

 午前9時10分、スタートを告げる号砲が鳴った。

 先頭に並んでいた世界のエリート・ランナーたちは、一斉に走り出した。

 何百メートルも続くスタート待ちの列のなか、早紀と涼介は比較的前の方にいたが、それでも、二人のまわりの人波は、まったく動かなかった。

 早紀は、足首を回しながら尋ねた。

 「リョースケ、膝、大丈夫なの?」

 涼介も、手首と足首を回しながら答えた。

 「ああ、あのときはふくらはぎが肉離れ起こしただけで、膝を傷めたわけじゃないし、前にケガしたのは反対の足だから」

 早紀は、沿道をふり返りながら言った。

 「ユーヤも、わかってたんなら、すぐ言ってくれればよかったのに。私に負けたのが悔しかったからって、わざと黙って……」

 早紀が自分たちを見ていることに気づくと、沿道にいた優也は「がんばれ!」と大きく描かれたボードを頭上に掲げ、ぴょんぴょんと跳ねた。

 早紀は、笑顔で手を振りながら、文句を続けた。

 「あとで問いつめたら、オレはなんにも言わなかっただけで、ウソついたわけじゃないっすよ……とかなんとか言っちゃって」

 何度も飛び上がるうち、優也は、となりの奈津の足を踏んだらしかった。

 涼介も、応援に駆けつけてくれた奈津たちの方を見ながら、言った。

 「許してやれよ。サキの代わりに、ナツが2度目のビンタをくらわせてくれたんだから」

 かがみこんでいた奈津が、立ち上がりざま、優也の頬をはり倒した。

 優也の痛みを想像したのか、涼介は顔をしかめながら言った。

 「そう言えば、あの石坂ってひと、うちの会社の人間でもないのに、新しい商品をどんどん開発してくれって、しょっちゅうメールを送ってくるよ」

 さらに追い打ちをかける奈津から逃げようと、優也は悦子の背中に隠れた。

 「私にも来るよ。どうすれば東京に連れ戻せるんだろう? どうすれば信用してもらえるのかな?って、高橋さんについての相談メールばっかり。私だってヒマじゃないから、時々しか返事しないけどね」

 大騒ぎしている3人を呆れ顔で眺めていたナベさんは、早紀と涼介に小さく手を振ってから、もう一方の手に持っていた文庫本へと視線を戻した。

 「サキ、忙しくなったもんな。アメリカ支社に引き抜かれた橘さんの仕事、引き継がされたんだろ?」

 「大丈夫。引き継いだって言っても、困ったときには橘さんが、アメリカからメールでアドバイスくれるから」

 それだけでなく、村沢とよりを戻すべきかどうかという相談メールも頻繁に送られて来ることは、黙っていることにした。

 「アメリカ支社って言えば、涼介、ほんとに、断ってよかったの?」

 「サキは行ってほしかったのか?」

 「……」

 「俺は、サキといっしょにいたかったんだ」

 「でも、あっちの研究施設、かなり充実してるって……」

 「最新の実験器具とか分析装置も大事だけど、俺にとって大切なのは、これと……」

 涼介は、自分の頭を指差した。

 「これだよ」

 涼介は、早紀の頭をぽんと叩いた。

 「それより、サキ、このレースには、なにを賭けるんだ?」

 早紀は、まっすぐに涼介の目を見つめた。

 「なんにも。賭けたって、意味ないもん!」

 涼介は、小さく首をかしげた。

 「意味ない?」

 「だって、いっしょにゴールインするんだから……そうでしょ?」

 涼介は、照れくさそうにうなずいた。

 そのとき、前の方から、群衆がほどけ始めた。

 いったん動き出すと、流れは、たちまち加速した。

 早紀と涼介は、笑顔で視線を合わせてから、肩を並べて走り出した。

(おわり)

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Profile
佐宮圭(さみや・けい)
作家。1964年兵庫生まれ。早稲田大学第一文学部人文学科卒業。アパレルメーカーの営業、花屋の社員を経て、1993年3月、フリーランスの編集兼ライターとなる。子ども向けの科学雑誌や『文藝春秋』『週刊朝日』などで活躍。2010年、『さわり - 女として愛に破れ、子らを捨て、男として運命を組み伏せた天才琵琶師「鶴田錦史」その数奇な人生』で第17回小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞。
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