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夜WOL小説・すあしの恋―第37話

2014年2月25日

人生をかけた皇居ランニング

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私は、東京に住むアラサーOLの佐藤早紀。恋はすっかりご無沙汰だった私に、モテ期が訪れた!? 私の恋物語を描く『Web小説・すあしの恋』は、いよいよ終盤を迎えました。 毎日18時に更新です!

(前話はこちら

 佐藤早紀の人生をかけたランニングが始まった。

 けれど、当の本人は、スタートを切れないまま、ぼうぜんと立ち尽くしていた。

 優也は、その場で足踏みしながら、早紀に尋ねた。

 「佐藤さん、なにしてるんですか? 早くしないと、置いてかれちゃうよ!」

 早紀が口を開く前に、奈津が優也に詰め寄った。

 「あんた、どういうつもり? なんで勝手に、こんなことすんのよ!」

 「だって、佐藤さん、言ってたじゃん? 走ってるときが、1番、勇気がわくって。だったら、走ってから村沢さんや石坂さんと話すんじゃなくて、勇気がわいてるランニング中に、さっさとかたを付けた方がいいに決まってるだろ?」

 奈津は、叱りつけるような口調で言った。

 「そんなタンジュンな話じゃないでしょ!」

 「タンジュンな話だよ!」

  優也は、親に反抗する子どものように言い返した。

 「フクザツに考えちゃうから、うまくいくものも、いかなくなっちゃうんだ!」

 優也は、足踏みを続けたまま、ふり返った。

 「あ~あ、村沢さん、飛ばし過ぎだな。涼介さんとか石坂さんとちがって、ちゃんとした長距離のフォームじゃないのに、最初からあんなにはりきっちゃってたら、いくら5キロぽっちでも、完走できないだろうな」

 「ユーヤ!」

 奈津が怒鳴りつけた。

 「わかったよ。走りながら、ちゃんと説明しとくよ。佐藤さん、そろそろ行かないと、さすがにゴールまでに追いつけなくなっちゃうよ!」

 優也は、背中を向けて走り出した。

 早紀も、慌ててあとを追った。

 スタートしてすぐは、なだらかな下り坂が続く。

 曇天の下、涼介、石坂、村沢は、かなり先まで走っていた。

 3人を追いかける優也は、高校のとき県代表に選ばれただけあって、懸命に走るランナーたちを悠々と抜き去った。

 早紀は、涼介に借りた『BORN TO RUN』に登場した女性ランナーの走法を試した。

 重力に逆らうことなく、下り坂を滑らかに落ちて行くのに任せると、速度は自然と上がった。

 お堀端の寒椿の花の紅が、視界の左側を飛び去ってゆく。

 止まっているときは、風がなく、春先のように温かかった。

 けれど、かなりのスピードで坂道を駆け降りると、頬に当たる空気は、ひんやりと心地よかった。

 コースは緩やかにカーブしていたが、内側にお堀があるので、霞が関のあたりまで一望することができた。

 1キロ近く続く下り坂には、カラフルなウエアを身にまとったランナーたちの姿が、点々と続いていた。

 涼介、石坂、村沢の3人は、その中間、麹町消防署の出張所の前を走っている。

 早紀にとって、とりあえずの目標は、優也に追いつくことだった。

 地面を蹴るのではなく、上体をわずかに前に傾け、倒れないよう引き戻す足のピッチを上げた。

 早紀が追いつくと、優也は、かなりのハイペースにもかかわらず、口調を乱すこともなく、語り始めた。

 「石坂さんには、この皇居1周のレースで勝つことができたら、佐藤さんが会ってちゃんと話を聞いてくれるって、そう言ってあるんです」

 「ウソついたの?」

 優也は、早紀の問いには答えず、話を続けた。

 「村沢さんには、佐藤さんが二度と会いたくないと言ってましたって伝えてから、石坂さんと同じ話を持ちかけました」

 「二つもウソついたの?」

 「なっちゃんが、よく言ってるじゃないですか。ウソも方便だって」

 「ウソはダメよ!」

 「わかってます。なっちゃんとか佐藤さんには、絶対にウソつきません。誓います。ほら、いまも佐藤さんには正直に話してるじゃないですか」

 スタートから1.2キロ地点にある桜田門の手前で、早紀は優也に尋ねた。

 「じゃあ、リョースケにも、ウソついたの?」

 「憧れてる涼介さんにウソつくのは、オレも心苦しかったんですけど、ま、涼介さんとは、まだ親友じゃないから」

 「どんなウソついたの?」

 「石坂さんと村沢さんと涼介さんの3人で競争して、負けた人は、佐藤さんから潔く身をひく約束のレースです……って!」

 早紀は、「大分県花」のプレートのところで立ち止まらせようと、優也の腕に手を伸ばした。

 しかし、一瞬早く、優也が加速した。

 「ちょっと、待ちなさいよ!」

 早紀が叫ぶと、優也は、首だけでふり返りながら言った。

 「悪いけど、これ以上、ペース落とせないんです。オレも、このレースに勝たなきゃいけないから!」

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Profile
佐宮圭(さみや・けい)
作家。1964年兵庫生まれ。早稲田大学第一文学部人文学科卒業。アパレルメーカーの営業、花屋の社員を経て、1993年3月、フリーランスの編集兼ライターとなる。子ども向けの科学雑誌や『文藝春秋』『週刊朝日』などで活躍。2010年、『さわり - 女として愛に破れ、子らを捨て、男として運命を組み伏せた天才琵琶師「鶴田錦史」その数奇な人生』で第17回小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞。
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