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夜WOL小説・すあしの恋―第36話

2014年2月24日

王子さまの正体

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私は、東京に住むアラサーOLの佐藤早紀。恋はすっかりご無沙汰だった私に、モテ期が訪れた!? 私の恋物語を描く『Web小説・すあしの恋』は、いよいよ終盤を迎えました。 毎日18時に更新です!

(前話はこちら

 2月2日、午前11時15時。

 早紀は、涼介にもらったシューズを履き、半蔵門のスタート地点に立った。

 空は、すっかり薄墨色の雲に覆われ、時折、雨がぱらついた。

 それでも、日曜の皇居周辺には、老若男女のランナーたちの姿が、途切れることはなかった。

 準備運動を終えた早紀は、本番に備えて体をほぐそうと、1キロ7分のスロージョギングで皇居を1周した。

 ゴール地点でもある和歌山県花の「うめ」のプレートの上に立ったときも、お堀の向こうの霞が関の上空は、どんよりと曇っていた。

 しかし、右手の新宿通りに目をやると、かなたの西の空には、ところどころ、青空の小さな裂け目が見えた。

 早紀は、ランニングウォッチに視線を落とした。

 別府大分毎日マラソンがスタートする正午まで、5分を切っていた。

 「サキ!」

 横断歩道を渡りながら、奈津が手をふった。

 彼女がそばまで来ると、早紀は尋ねた。

 「ユーヤは?」

 「あたしが聞きたいよ。現地集合だって、印のついた地図のプリントアウトを渡されただけだから、地下鉄の駅を降りてから、すっかり道に迷っちゃったよ。あいつ、いったい、どこほっつき歩いてるんだか……」

 「なっちゃん!」

 スタート地点のすぐ近くにある公園の方から、優也の声がした。

 早紀と奈津が声のした方へ移動すると、公園の奥でストレッチをしていた優也が、親を見つけた子どものように駆けてきた。

 「あんた、なんで、そんな格好してんの?」

 奈津に尋ねられた優也は、平然と答えた。

 「オレも走るからだよ……ていうか、勝つために、ここに来たんだ!」

 奈津は、けげんそうな表情で尋ねた。

 「あんた、なにわけのわかんないこと言ってんの? これはサキが生まれ変わるための大切な……」

 そこまで言って、奈津は言葉を飲みこんだ。

 驚きで目を丸くする奈津の視線を追って、早紀も息を飲んだ。

 ランニングウエア姿の村沢清一郎が、横断歩道を渡って、こちらに歩いて来た。

 「村沢さん……どうして?」

 早紀が尋ねると、村沢は、優也に笑みを送りながら答えた。

 「一昨日の金曜、空港の到着口を出たときに、市瀬くんに呼び止められて、今日の話を教えてもらったんだ。ちょっと時差ぼけは残ってるけど、僕も、アメリカではジョギングが趣味だったから、今日はとても楽しみだよ」

 奈津が、怒って優也に尋ねた。

 「あんた、どうして村沢さんを……」

 「そんなの、なっちゃんに鍛えられた調査能力をもってすれば、カンタンだったよ!」

 自慢げに語る優也に、奈津は「そういう話じゃなくて……」と言いかけたが、また、途中で言葉を飲みこんでしまった。

 早紀は、恐るおそる、奈津の視線をたどった。

 早紀たちの会社の新作ウエアを着た石坂仁は、4人の近くまで来ると、軽快な足取りを止めた。

 「やあ! 市瀬くん、今日はお招きいただいて、ありがとう! 大事なレースの前に、体をほぐしておこうと思って、軽く1周、流して来たよ」

 石坂は、優也に笑顔で言うと、さらに爽やかな笑顔になって、早紀を見つめた。

 「やっと会えたね」

 早紀はもう、なにがなんだか、わからなくなった。

 それでも、とにかく、いま起こっている出来事を整理するために、優也を問いただそうとした。

 けれど、早紀は、言葉を発することができなかった。

 早紀と優也の間を一人のランナーが走り抜けた。

 驚いて身をそらしたあと、早紀は、その無礼なランナーを目で追った。

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Profile
佐宮圭(さみや・けい)
作家。1964年兵庫生まれ。早稲田大学第一文学部人文学科卒業。アパレルメーカーの営業、花屋の社員を経て、1993年3月、フリーランスの編集兼ライターとなる。子ども向けの科学雑誌や『文藝春秋』『週刊朝日』などで活躍。2010年、『さわり - 女として愛に破れ、子らを捨て、男として運命を組み伏せた天才琵琶師「鶴田錦史」その数奇な人生』で第17回小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞。
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