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夜WOL小説・すあしの恋―第33話

2014年2月19日

タフな女たち

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私は、東京に住むアラサーOLの佐藤早紀。恋はすっかりご無沙汰だった私にも、もしかしてモテ期が到来!? 私の恋物語を描く『Web小説・すあしの恋』は、いよいよ終盤! 毎日18時に更新です!

(前話はこちら

 橘は、残っていた酒を飲み干して、言った。

 「結局、誰も幸せになれなかったのは、わたしのせいだから」

 早紀も、酒を飲み干した。

 「橘さんこそ、被害者じゃないですか?」

 「こうなってしまったのも、もとはと言えば、わたしが村沢からの2度のプロポーズを断ったからなの」

 早紀は、驚いて橘をみた。

 橘は、小さな吐息をもらしてから、話を続けた。

 「知ってるでしょ? わたしが、この会社に入れたのも、女性として初めて営業職に就けたのも、実家のコネがあったからなの。もちろん、わたし自身が、それを利用するつもりなんてなかった。でも、コネがあったのは事実だから、どんなにがんばっても、いつも『あいつはコネ入社だから』って、妬まねたり、恨まれたりしてた。それが、すごくいやだったし、悔しかったの」

 橘は、ぐい飲みを手にとったが、空なのに気づき、静かにカウンターに戻した。

 「だから、初めて大きなプロジェクトのリーダーを任されたとき、その仕事を成功させればきっと、コネなんて関係ない、あいつには実力があるんだって、まわりの人間に認めさせられると思ったの。その話が来てすぐ、わたしの29歳の誕生日に、村沢からプロポーズされた。ちょっと迷ったけど、結局、このプロジェクトを無事に終わらせるまで待ってほしいって、村沢に言ったわ」

 橘は、ぐい飲みの底をみつめていた。

 「準備も入れて2年がかりのプロジェクトは、予定より大きな成功を収めることができたの。そしたら、すぐ、もっと規模が大きくて、会社にとっても重要な案件のプロジェクト・マネージャーの話が来た。新製品の開発も含まれていたから、ゴールは4年後だった。がむしゃらに頑張ったわ。3年かけて、なんとか軌道にのせられたって頃、34歳の誕生日が来て、また、村沢からプロポーズされたの」

 早紀は、橘を見た。

 橘は、早紀の視線には反応しないまま、語り続けた。

 「今度は、村沢も必死だった。彼、子どもが好きで、わたしの年齢を気にしてたし、それに、アメリカ支社への異動の辞令が出てたから、結婚して、いっしょに来てほしいって」

 橘はマスターに視線を送ると、空になった自分のぐい飲みを指差した。

 マスターは、一瞬、困った顔をしたが、すぐに、新しい2合徳利の用意を始めた。

 橘はうれしそうに笑むと、明るい声で言った。

 「でも、また返事をのばしちゃった。これは、わたしだけのチャンスじゃないって、そう思ったから」

 「どういう意味ですか?」と早紀は尋ねた。

 「仕事で評価されようと思ったら、女は男の何倍も働かなきゃいけないでしょ? たとえ実績は評価されても、上に上がるのは、なぜか、男。31で成功させた案件もそうだった。出世したのは、わたしをサポートしていた男性社員だった。でも、次の仕事が成功したら、女性初の管理職への昇進が約束されていたの。自分のあとに続く女性社員たちのためにも、そこで前例をつくっておきたかった。だから、もう少しだけ待ってって、村沢に頼んだの」

 マスターがカウンターにとっくりを置くと、橘は「ありがとう」と言って、早紀のぐい飲みに注いだ。

 「村沢は、ずっと待っていてくれた。その優しさに甘えて、わたしは、仕事と人生を天秤にかけたまま、返事をずるずる伸ばしてた……だから、村沢は好きでもない女と結婚するはめになったし、彼女も、結局は幸せになれなかった」

 橘は、自分のぐい飲みに酒を注ぎながら言った。

 「わたし、村沢と別れてからは、ずっと、リベンジしてきたのよ」

 「リベンジ?」と早紀は橘に聞き返した。

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Profile
佐宮圭(さみや・けい)
作家。1964年兵庫生まれ。早稲田大学第一文学部人文学科卒業。アパレルメーカーの営業、花屋の社員を経て、1993年3月、フリーランスの編集兼ライターとなる。子ども向けの科学雑誌や『文藝春秋』『週刊朝日』などで活躍。2010年、『さわり - 女として愛に破れ、子らを捨て、男として運命を組み伏せた天才琵琶師「鶴田錦史」その数奇な人生』で第17回小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞。
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