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夜WOL小説・すあしの恋―第31話

2014年2月17日

〈いまさら、なにを期待してたんだろ?〉

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私は、東京に住むアラサーOLの佐藤早紀。恋はすっかりご無沙汰だった私にも、もしかしてモテ期が到来!? 私の恋物語を描く『Web小説・すあしの恋』は、いよいよ終盤! 毎日18時に更新です!

(前話はこちら

 早紀は、ランチもそっちのけで話に興じる女子社員や、資料を見ながら機械的に箸を動かす若手の営業マン、肩を寄せ合うようにして議論する管理職たちの姿を眺めていた。

 〈うちの社員食堂って、こんなに広かったんだ〉

 早紀は、もうずいぶん長い間、出入り口から一番遠い壁ぎわのテーブルの、内側の席につくのが習慣になっていた。

 でも、今日は、涼介の定位置の「窓を背にした席」に座っていた。

 ここからは、社員食堂の印象が、まったくちがって見えた。

 〈リョースケ、いつも、こんな風景を見てたんだ〉

 早紀は、ふと自分のそばに目を落とした。

 箸をつける気がしなかった。

 〈なに緊張しちゃってるんだろ?〉

 早紀は、社員食堂の出入り口へと視線を戻した。

 この10年、昼休みに社員食堂に来さえすれば、涼介に会えた。

 会えなかったのは、数えるほどだった。

 なので、彼の電話番号もメールアドレスも知る必要がなかった。

 でも、今日は、どうしても、確実に、涼介に会いたかった。

 あの“素足のシューズ”のお返しに、早紀も、涼介へのクリスマス・プレゼントをランニング・シューズにしようと思った。

 早紀は、涼介の足のサイズもかたちも知らないので「仕事が終わってから、ふたりで選びに行こう!」と誘うことにした。

 だから、出入り口がよく見えるこの席に座った。

 涼介が社員食堂には入らず、前を素通りしたとしても、急いで追いかけるためだった。

 それでも涼介をつかまえられなかったときは、恥ずかしいけれど、午後、彼の研究室を訪ねてみようと思った。

 〈そういえば、いつから、このテーブルに座るようになったんだっけ?〉

 早紀は、左右に離れた入口と出口を交互にチェックしながら、思い出そうとした。

 最初に「ここにしましょう」と言ったのは、研修中の涼介だった。

 以来、涼介は、研修期間が終わり、奈津も加わって3人で昼食をとるようになってからも、このテーブルで、自分が窓を背にして座ることにこだわり続けた。

 〈どうして、涼介はここに座りたがったんだろ?〉

 早紀が記憶をたどっていると、唐突に、涼介の研修期間の最終日の出来事がよみがえった。

 二人で昼食をとっていたとき、早紀は涼介に「どうして、その席にばっかり座るの?」と尋ねた。

 涼介は、長いあいだ迷ったあと、恥ずかしそうに答えた。

 「佐藤さんの顔が、窓からの光で、きれいに見えるから……」

 思い出したとたん、早紀はうつむいてしまった。

 赤面していることをまわりの人間に気づかれたくなかった。

 あの頃は、まだ学生時代から付き合っていた恋人がいて、涼介を男として意識していなかった。

 「見かけによらず、口がうまいのね」と言って、早紀は軽く受け流してしまった。

 いま思うと、涼介が、そんなことを軽々しく口にしたとは思えなかった……。

*    *    *    *    *    *

 人の気配を感じ、早紀は視線を上げた。

 テーブルをはさんで、涼介が立っていた。

 「ナツは?」と涼介が尋ねた。

 早紀は、とっさにうつむいて、箸を手に取った。

 「さあ、今日はユーヤと、外で食べてるんじゃないかな。なにか用でもあったの?」

 「いや、用があるのはサキになんだ。話したいことがあって……」

 「私もよ!」

 早紀は、また箸を置いた。

 「突っ立ってないで、早く食事を選んでくれば?」

 「いや、話がすんだら、すぐに実験室に戻らなきゃいけないから」

 「時間がないのね。じゃあ、私の要件から先に言わせて! 今日、仕事が終わったら、ちょっと付き合ってもらえない?」

 早紀は、最高の微笑みを浮かべた。

 涼介は、困ったような顔をした。

 早紀は、笑みを消した。

 「遅くなってもいいの。ただ、どうしても、リョースケに相談したいことがあって……」

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Profile
佐宮圭(さみや・けい)
作家。1964年兵庫生まれ。早稲田大学第一文学部人文学科卒業。アパレルメーカーの営業、花屋の社員を経て、1993年3月、フリーランスの編集兼ライターとなる。子ども向けの科学雑誌や『文藝春秋』『週刊朝日』などで活躍。2010年、『さわり - 女として愛に破れ、子らを捨て、男として運命を組み伏せた天才琵琶師「鶴田錦史」その数奇な人生』で第17回小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞。
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