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夜WOL小説・すあしの恋―第29話

2014年2月13日

イブの街で、あの少女を目撃して

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私は、東京に住むアラサーOLの佐藤早紀。恋はすっかりご無沙汰だった私にも、もしかしてモテ期が到来したかも!? 私の恋物語を描く『Web小説・すあしの恋』は、毎日18時に更新です!

(前話はこちら

 二人は、街のはずれにあるバーを目指して歩いていた。

 その店のボックス席はパーテーションで区切られているので、ほかの客に会話を聞かれる心配がなかった。

 早紀は、駅の近くで、そんな条件を満たす店を知らなかった。

 「だから、どうしても今夜、会いたかったんだ」

 そう言うと、村沢は立ち止まり、後ろから来たタクシーからかばうように、そっと早紀に体を寄せた。

 道幅が狭く、歩道はなく、街灯もまばらだった。

 皇居ランにデビューする前、駒沢公園のランニングコースに飽きた早紀は、よく、このあたりを走った。

 駅の周辺とはちがい、静かで、落ち着いた雰囲気が好きだった。

 女性ランナー目当ての変質者が現れて騒ぎになってからも、走り続けた。

 王子さまと出会ったのは、そんなときだった。

 ふだんは、この界隈の住人のクルマしか通らなかった。

 けれど、今夜はタクシーがかなりの頻度で走っていた。

 二車線道路が混雑したとき、民家やマンションの密集地を大きく迂回する一方通行のこの道が、反対側の幹線道路への「抜け道」になることを、タクシーの運転手たちは知っていた。

 「いつ、アメリカに発つんですか?」

 去り行くタクシーのテールランプを眺めながら、早紀は尋ねた。

 「明日の午後だよ。だから、きみに会えるのは今日しかなかったんだ」

 村沢が見つめているのはわかった。

 けれど、早紀は知らないふりをして歩きだした。

 「いつ、こちらに戻るんですか?」

 「来年の1月いっぱいは、向こうで仕事がある。2月にはまた日本に何週間か滞在するから、それが終わったら、しばらくは遠距離恋愛だけど……」

 早紀は立ち止まり、村沢の顔を見上げた。

 「ちょっと待ってください。そんなこと、急に言われても……」

 「あ、ごめん。まだ、付き合ってもらえるかどうか、答えを聞いてなかったね」

 村沢は、通り過ぎるタクシーから早紀を守るように体を寄せると、あの少年のような笑顔をみせた。

 「僕は本気だよ。好きになれそうな人と出会えるなんて、この10年で一度も……」

 村沢の言葉が途切れた。

 少年のような微笑みが消えた。

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Profile
佐宮圭(さみや・けい)
作家。1964年兵庫生まれ。早稲田大学第一文学部人文学科卒業。アパレルメーカーの営業、花屋の社員を経て、1993年3月、フリーランスの編集兼ライターとなる。子ども向けの科学雑誌や『文藝春秋』『週刊朝日』などで活躍。2010年、『さわり - 女として愛に破れ、子らを捨て、男として運命を組み伏せた天才琵琶師「鶴田錦史」その数奇な人生』で第17回小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞。
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