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夜WOL小説・すあしの恋―第22話(2/2)

2014年2月4日

会社でもちきりのうわさって…?

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 「橘女史ってさ、若い頃は元気で明るくて、他人を助けることに生き甲斐を感じるようなタイプだったんだって。だから、社内はもちろん、取引先からも親しみをこめて『サユリちゃん』って呼ばれてて、うちの部の上司たちなんか、橘女史がすっかりイメージ変わっちゃってからも、こっそり『サユリちゃん』って呼んでたくらいだから」

 「その『サユリちゃん』がいよいよ本気って、どういうこと?」と早紀はソバをたぐりながら尋ねた。

 「仕事での評価が高い『ミス・パーフェクト』のキャラを捨てて、社内のみんなから愛される『サユリちゃん』に戻ったのは、きっと、アレを狙ってるからだろうって」

 「アレって?」

 「オリンピック準備委員会のメンバー」

 「そうかな」と早紀はつぶやいた。

 「そうに決まってるよ」

 「仕事じゃなくて、プライベートな理由かもしれないじゃない」

 「プライベートって?」

 「たとえば、好きな人ができて、本当の自分を見てもらいたくなったとか」

 「サユリちゃん、もう44だよ? そんな理由で、せっかく築き上げてきたイメージを捨たりすると思う?」

 〈私なら捨てちゃう〉と早紀は思ったが、口にしなかった。

 「それに、もし恋してるなら、ボーイッシュになるのは逆効果でしょ? しかも、前よりハードに働くようになったんだから、デートする時間なんて、いまのサユリちゃんには1秒だってないよ。だから絶対、オリンピック準備委員会の……」

 「デートっていえば、ふたりはクリスマスの予定、どうなってる?」

 早紀と奈津は、同時に涼介を見た。

 自分からはめったに話さない涼介が、強引に割りこんできただけでも驚きだった。

 しかも、口にした話題が、彼にはまったく不似合いなものだった。

 奈津が、はしゃいだ感じでまくしたてた。

 「そうだよね! イブまで、あと4日しかないもんね。どうせリョースケもサキも、予定ないんでしょ? あたしもめずらしく空いてるから、3人でパーティーしよう!」

 奈津は、問いかけるような目で涼介を見た。

 「俺、どうせひまだから、べつにいいよ」

 奈津は早紀に笑顔を向けた。

 「私も予定は入ってないけど」

 「じゃあ、決まり。プレゼントも交換しよ! 社員食堂以外で3人で集まるの、初めてだよね。きっと、すっごく楽しいクリスマス・イブになるよ。早速、今夜、どんなパーティーにするか、サキとあたしで作戦会議を……」

 早紀は時計をみると、トレイを持ち、席を立ちながら言った。

 「ごめん。今日は仕事があるから、ムリ!」

 正確には「仕事」ではなく、村沢清一郎の歓迎会だった。

 「え~、仕事ぉ~?」

 奈津はほほをふくらませた。

 「しょーがないな。じゃあ、あたしがセッティングしとくよ。でも、プレゼントだけは、ちゃんと用意してよ!」

 早紀は奈津と涼介に軽く手をふり、社員食堂を出た。

 「クリスマス・プレゼントか。なににしよう?」

 奈津が喜びそうなものには、いくつか当てがあった。

 でも、涼介になにを贈ればいいのか、思いつかなかった。

 〈リョースケが喜ぶもの……か〉

 ふと、いつか涼介が「シューズにも興味はあるよ」と言っていたことを思い出した。

 けれど、どんなランニング・シューズを選べばいいのか、早紀にはわからなかった。

 なにより、涼介の足に合う靴のかたちもサイズも知らなかった。

 〈リョースケの素足って、どんな感じなんだろう?〉

 頭のなかに思い描こうとした。

 胸がキュンとうずいた。

 早紀は首をふり、想像するのをやめた。

 なぜか、とても恥ずかしい気分になった。

(つづく)

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Profile
佐宮圭(さみや・けい)
作家。1964年兵庫生まれ。早稲田大学第一文学部人文学科卒業。アパレルメーカーの営業、花屋の社員を経て、1993年3月、フリーランスの編集兼ライターとなる。子ども向けの科学雑誌や『文藝春秋』『週刊朝日』などで活躍。2010年、『さわり - 女として愛に破れ、子らを捨て、男として運命を組み伏せた天才琵琶師「鶴田錦史」その数奇な人生』で第17回小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞。
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