私は、東京に住むアラサーOLの佐藤早紀。恋はすっかりご無沙汰だった私にも、もしかしてモテ期が到来したかも!? 私の恋物語を描く『Web小説・すあしの恋』は、毎日18時に更新です!

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 「連絡事項の確認を始めます!」

 12月に入って初めての朝礼を告げる橘の声は、いつもと同じだった。

 しかし、ふり返った早紀は、思わず目を見張った。

 橘の華麗にウエーブした長い髪が、ベリーショートに変わっていた。

 しかも、キャメルのカシミアニットとオフホワイトのパンツにシューズを合わせたマニッシュな装いは、まったくの別人だった。

 〈橘さんに叱られる前の私のコーデと変わらないじゃない〉と早紀は思った。

 「今日は、みなさんにご紹介したい人がいます。どうぞ、こちらへ」

 橘に促され、男がオフィスに入って来た。

 早紀は「あっ」と小さく声をあげ、固まってしまった。

 「みなさんのなかには初めての人もいると思うので、紹介します。アメリカ支社から来られた『村沢清一郎』さんです。しばらくの間、うちの部に力を貸していただきます」

 「村沢です。よろしくお願いします」

 低くなめらかな声も、スーツの着こなしも、メガネの奥からそっと見守ってくれるような眼差しも、なにも変わっていなかった。

 部員たちは立ち上がり、村沢に歩み寄ると、名刺の交換と簡単な挨拶をかわし始めた。

 早紀の頭のなかでは、一昨日の夜の「ずいぶん前に出会っていた待ち人」という言葉が、ぐるぐる回っていた。

 〈どうして突然、村沢さんが、私の前に現れたりするの?〉

 気づくと、ほかの部員はみな挨拶を終えたらしく、デスクに座ったままの早紀をけげんそうにみつめていた。

 早紀は立ち上がろうとした。

 しかし、腰に力が入らなかった。

 村沢は、ごく自然な感じで早紀のデスクに歩み寄ると、英語で刷られた名刺を両手で差し出した。

 早紀はあたふたと名刺入れを探し始めた。

 「そんなに慌てなくもいいよ」と言うと、村沢が顔を近づけてきた。

 10年前の記憶がよみがえり、早紀は思わず、額に手を当てた。

 そのしぐさで、村沢は早紀がなにを思い出したのか、気づいたらしかった。

 「日本では、名刺を渡すとき、頭を下げるだろ?」

 早紀が大好きだった、あの懐かしい少年のような笑顔を見せてから、村沢は姿勢を戻した。

 「佐藤早紀さん。10年ぶりなのに、変わってなくてうれしいよ」

 なにか答えなければ、と思った。

 でも、口を開くと心臓が飛び出して、そこらじゅうを跳ね回りそうだった。

(つづく)