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夜WOL小説・すあしの恋―第6話

2014年1月13日

営業として花開く…!

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私は、東京に住むアラサーOLの佐藤早紀。恋はすっかりご無沙汰だった私にも、もしかしてモテ期が到来したかも!? 私の恋物語を描く『Web小説・すあしの恋』は、毎日18時に更新です!

(前話はこちら

 「スポーツの秋」を過ぎても、スポーツアパレルメーカーの仕事が落ち着くことはなかった。

 秋冬物のセールの対応や、クリスマス需要を含む年末商戦に向けての品揃え、春夏物の受注の準備など、仕事は山ほどあった。

 営業の仕事に慣れるまで、予想していたほど長い時間はかからなかった。

 社内にこもって事務仕事に明け暮れる営業アシスタントの仕事と、ほとんどが外回りの営業の仕事とでは、身体の疲れ方はまったくちがった。

 けれど、10年近く続けてきた営業アシスタントの経験が、いまの営業の仕事にも大いに役立った。

 営業アシスタントの仕事は、クライアントからの電話の対応、売上や在庫データの作成と管理、関係部署との連携の調整、展示会や催事の支援など、ありとあらゆるサポート業務だった。

 数名の営業で構成されたチームをアシスタント一人で担当する。急ぎの仕事が重なったときは、どうすれば効率よく作業を進められるか、優先順位を決め、一つのミスもトラブルもなく、最速の手際でこなさなければならなかった。どうしても一人でこなせなくなったときには、手のあいている仲間が手伝ってくれた。仕事のきつさを理解する者同士が自発的に助け合う環境も魅力の一つだった。

 当時の仲間たちは、転属されてからも、早紀を何かとサポートしてくれた。

 総合職の営業は、事務職の営業アシスタントよりも概して給料が高い。しかも担当部門によっては、繁忙期の残業が珍しくない営業アシスタントよりも早く退社できる。それでも、営業アシスタントから営業へ引き抜かれた早紀に対して、妬みややっかみを持つ仲間はいなかった。

 かつての早紀もそうだったが、彼女たちは「縁の下の力持ち」として頼られ感謝される「営業アシスタント」の仕事に誇りを持っていた。

 早紀は、営業アシスタント時代、責任者はもちろん、さまざまな売り場の人たちと、電話かメールだったがきめ細かにコミュニケーションをとっていた。信頼関係を築いた彼ら彼女らがどんなことに困っていて、できればどうしてほしいか、上の人間には言えない本音を聞かされることも多かった。

 だから、スタッフが少しでも気持ちよく働けるように、接客の邪魔にならない範囲で、現場作業の手伝いをした。それは、サポートすることに喜びを感じる営業アシスタントの性(さが)のようなものだった。

 その小さな積み重ねが、スタッフたちの好感と信頼につながり、やがて、責任者からの評価にもつながっていった。

 その時代の経験とコネクションが、早紀の武器となった。

 営業になってからは、担当する売り場には、できるかぎり頻繁に足を運んだ。営業アシスタント時代に直接、顔を合わせたことはなかった売り場の担当者に名刺を差し出し、挨拶すると「佐藤さんには、一度、お会いしたかったんです。声や話し方から想像していたのより、ちょっと背が高いけど、でも、思ってたとおりのひとでした」などと、誰もが笑顔で迎えてくれた。

 なので、営業に移ってからも、仕事にストレスを感じることはなかった。

*    *    *    *    *    *

 橘からは「石坂仁との仕事を最優先にしなさい」と事あるごとに言われた。

 最初の挨拶のとき、早紀と石坂に面識があるのを知った橘は、その後のすべての交渉を早紀に任せるようになった。

 早紀は、週3、4回のペースで石坂のもとに通った。

 長くても15分、短ければ数分で終わる二人だけのミーティングは、ホワイトボードと広めの机、パイプ椅子がいくつか置かれた簡素な打ち合わせルームで行われた。

 初めのころは、新作のランニングウエアの特徴や機能に関する質問が続いた。通気性や保温性はもちろん、走っているときの静音性や肌触りなどについて、石坂は、販促用の資料にも載っていない細かなデータまで求めた。

 さらには、素材の特性や製造法、データの根拠となる実験の信頼性など、ベテランの営業ですら即答できない内容にまで突っ込んできた。

 石坂のあまりに専門的な質問に困り果てた早紀は、涼介を頼った。多忙なはずの涼介は、わざわざ時間をつくり、特許として公開された範囲内で、科学が苦手な早紀にも理解できるように、根気強く、丁寧に教えてくれた。

 そんな涼介の親身になったレクチャーの甲斐あってか、早紀のプレゼンテーションについに石坂も納得したのか「次に来るときは、橘さんを連れてきてください」と言った。

 石坂と会ってから、ひと月近く経ったころだった。

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Profile
佐宮圭(さみや・けい)
作家。1964年兵庫生まれ。早稲田大学第一文学部人文学科卒業。アパレルメーカーの営業、花屋の社員を経て、1993年3月、フリーランスの編集兼ライターとなる。子ども向けの科学雑誌や『文藝春秋』『週刊朝日』などで活躍。2010年、『さわり - 女として愛に破れ、子らを捨て、男として運命を組み伏せた天才琵琶師「鶴田錦史」その数奇な人生』で第17回小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞。
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