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夜WOL小説・すあしの恋―第3話

2014年1月8日

ランニング中にあった二つの出会い

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私は佐藤早紀。東京に住むアラサーOLだけど、恋はご無沙汰気味。そんな私の恋物語を描く『Web小説・すあしの恋』は、毎日18時に更新します。どうぞお楽しみに!

(前話はこちら

 「東京マラソンは、来年2月23日、私の誕生日に開催されるの。35歳になるときのいい記念になるかなって思って、前にも話したと思うけど、2カ月前、エントリーしたの」

 本当は「いい記念」などという軽い気持ちではなく、もっと切羽詰まった理由があった。

 けれど、そのことには触れなかった。

 「そしたら、ひと月ほど前、当選の通知メールが届いたの!」

 佐藤早紀は、もりそばと冷や奴をトレイの上に置いた。大好きなレディースランチはしばらく食べていなかった。東京マラソンに出られることが決まってから、以前にもまして、体重管理には気をつけるようになっていた。

 「ふ~ん」

 田中奈津は、興味なさそうにうなずくと、いつものようにサラダだけトレイに乗せ、会計のレジへと歩き出した。

 「抽選ってことは、わざわざ疲れたがってる物好きが世の中にはたくさんいるってことね」

 同期入社の奈津は、真夏に迎えた誕生日で早紀より一足先に35歳になっていた。けれど、ガーリー系のファッションに毎朝1時間近くかけるヘアメイクのおかげで、ぱっと見は20代に見えた。

 「そこらを走り回るってだけでそんなに喜べるあんたがうらやましいよ」

 「今年の倍率は10倍だから、喜ぶのも当たり前だよ」

 いつのまにか早紀の後ろに並んでいた深水涼介が、レジに小銭を出しながら言った。

 3人は、いつもの席に歩み寄ると、涼介が窓を背にして座り、彼と向かい合うようにして早紀と奈津が座った。まるで示し合わせたように同時に両手を合わせ、いただきます、と口のかたちだけで合唱すると、それぞれ、箸、フォーク、スプーンを動かし始めた。

 涼介は院卒なので、入社は2年遅れだが、早紀たちと同い歳だった。

 涼介が会社に入ったばかりの頃、早紀は彼の指導係を任された。研修期間中、奈津も交えて3人でランチを食べるようになった。その習慣は、涼介の研修期間が終わってからも、なんとなく続いた。

 早紀は営業部、奈津は人事部、涼介は企画開発部と職種がバラバラで、仕事での利害関係のないことが幸いしたのか、気がつくと、3人でのランチは10年余り続いていた。

 ただ、ランチ以外で3人が会うことはほとんどなかった。早紀も奈津も、涼介の電話番号もメールアドレスも知らなかった。

 それでも「男と女の間に友情は成り立たない」と主張する奈津ですら、最近では「あたしたち3人って親友だよね」と口にするようになっていた。

 「倍率が高いってことは、走れる人数が少ないんだね」という奈津の言葉に「3万人だよ」と涼介が答えた。

 「招待選手やチャリティーランナーなんかも入れれば、3万6000人だ」

 「じゃあ、30万人が応募したってわけ? 何時間も走らされて、ただ疲れるだけなのに」

 「ナツも、一度、走ってみればわかるよ」と早紀は言った。

 「遠慮しとく。汗かいて辛い思いして痩せるより、お金払って気持ちよくきれいにしてもらえるエステの方が、あたしの性には合ってる」

 奈津はプチトマトをほおばった。

 「それに、あんまり筋肉つけたくないんだよね。運動しなくなったら、とたんに脂肪に変わっちゃうし、見た目はきれいになれても、カンジンなとき、腹筋とか割れてたら、男がどん引きするから」

 奈津はサラダの上に散りばめられたベーコンのスライスを丁寧によけながら続けた。

 「そのマラソンに出るために、大学までバスケ一筋だったあんたが、家の近所でランニング始めたんだよね」

 「そう。ある程度、身体もつくれたし、3日前の金曜日、憧れの皇居ランニングにデビューしたってわけ。一週間前のランチのときにも言ったよね? この週末にデビューするつもりって」

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Profile
佐宮圭(さみや・けい)
作家。1964年兵庫生まれ。早稲田大学第一文学部人文学科卒業。アパレルメーカーの営業、花屋の社員を経て、1993年3月、フリーランスの編集兼ライターとなる。子ども向けの科学雑誌や『文藝春秋』『週刊朝日』などで活躍。2010年、『さわり - 女として愛に破れ、子らを捨て、男として運命を組み伏せた天才琵琶師「鶴田錦史」その数奇な人生』で第17回小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞。
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