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中江有里さん・7月に味わいたいこの2冊

2013年7月1日

『愛しいひとにさよならを言う』『タンジブル』を読む

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 こんにちは、中江有里です。長年お世話になっていたブログコーナーから、この度こちらへと引っ越してまいりました。どうぞよろしくお願いします。

 前コーナーでは本についてのエッセイを綴っていましたが、新天地では女子にオススメの本を二冊紹介する予定です。初回に紹介する本は、こちら。

石井睦美著『愛しいひとにさよならを言う』(角川春樹事務所 1500円)。

 膝小僧にうっすらと残る、子どもの頃に転んで付けた傷跡を撫でるみたいに、懐かしい。もう傷は治っているのに、痛みの記憶は残っている。読みながら、昔の時間をさまよっているみたいな気分。

 生まれた時から父親のいない主人公のいつかは、絵画修復家の母と、近所に住む母の友人ユキさんに育てられた。周囲から見れば少し変わった家族。だけどいつかにとっては、これ以上ない家族。彼女が経験する出会いと別れは、不思議な感傷を呼び起こします。

 いつかの母の慎は、実母と同じ教師になるように望まれましたが、画家を目指して美大へと進みます。やがて自分の才能を見限り、絵画の修復を仕事にするように。そんなシングルマザーを支えるユキさんは公務員。

 二人を並べると、慎よりもユキさんの方が料理上手で母らしくいつかに接しているのが興味深い。逆に言えば、慎は母ひとりで娘を育てあげようというプレッシャーから、いろいろ見落としてしまうのだろう、と同情する部分もある。そして友人として子育てに協力をするという姿勢を崩さないユキさんの大人ぶりには、頭が下がる。二人の固い友情はいつかを間に育まれているんです。

 わたし自身、幼い頃から母が働いていたので、学校から帰っても母がいないのが当たり前で、さみしいとは思ったけど、母の働く姿は子どもの目で見ても輝いて見えました。

 大人になって子どもを描いた小説を読むと、昔の自分に出会うような気分になり、また幼い自分を囲んでいた大人の気持ちも想像ができます。これまでの出会いと別れを振り返りながら、過ごしてきた時間を俯瞰し、自分の人生を愛おしむ。いい小説です。

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Profile
中江 有里
中江 有里
1973年大阪生まれ。89年芸能界デビュー。 2002年「納豆ウドン」で第23回BKラジオドラマ脚本懸賞最高賞受賞。 NHK-BS「週刊ブックレビュー」で長年、司会を務めた。 近著に「ホンのひととき 終わらない読書」(毎日新聞社)。 現在、NHK「ひるまえほっと」‘中江有里のブックレビュー’に出演、 関西テレビ「スーパーニュースアンカー」、フジテレビ系「とくダネ!」にコメンテーターとして出演中。新聞や雑誌に読書エッセイを連載中。書評も多く手がける
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