
今日、5月15日から、禅の修行道場では「安居(あんご)」という修行期間に入ります。安居中の90日間は、道場の外へ出ることを控えて修行に打ち込むのです。
この制度はもともと、インドの雨期と関係があります。雨の降り続く間、ブッダや弟子たちは外出を控えるようにしていました。その習慣が2500年を経て、今の日本に伝わって行われているわけです。
この約3カ月の期間中、大勢で1カ所に籠もって修行するのですから、さぞや息が詰まるのでは…と思われるでしょう。ところが、実際はそれほどでもないのです。坐禅を中心に、伽藍のお掃除や薪割りなどの作業、托鉢で門前に出ることもありますし、その他たくさんの修行をします。退屈さや窮屈さを感じている暇が無い、というのが正直なところです。
修行していた当時は全く自覚がありませんでしたが、今にして思えば、安居中の生活規則は頭と体を実にバランス良く、調和のとれた状態で働かせるようにできていました。早寝早起きを基本に、考えては動き、動いては考え。五感のひとつひとつを丁寧に感じ取りつつ、毎日毎日を細やかに暮らしていました。
その故でしょうか。修行中、普段の何気ない物事にハッとさせられることが度々ありました。さとりというほどのことではありませんが、心を打つような鮮やかな瞬間があったのです。ある瞬間の鐘の音や日の光に、いつもとは違う感じ方をしました。
その結果、私の何かが変わったのかというと…。正直なところ特に変わっていないようです。それでも安居を終え、今こうして市井に暮らしていると、あの当時の体験が「自分の中心」とでもいうところをキチンと形作っていることに気がつきます。
メリハリと目標のある生活。それこそが安居修行の本質であったように思います。修行道場で安居の始まるこの日、改めて自分の目標を見直し、調った生活を送っていけるようにしたいものです。