『世界しあわせ紀行』
エリック・ワイナー

 早川書房/2415円
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幸福度の調査結果でヨーロッパ上位のスイスでは人々の生活からその原因を探り、「国民総幸福量」を国策の基本理念とするブータンでは思想家に話を聞き、経済的に世界でもっとも豊かな国のひとつカタールでは贅沢な時間をすごす……。世界30カ国以上で滞在した経験のあるジャーナリストが、世界で一番幸せな国を探すために世界10カ国を訪れた全記録。全米ベストセラー。


 『世界しあわせ紀行』は、早川書房のサイトでけっこう前から発売が予告されていたけれども、なかなか出なくて待っていた本です。早川書房は何カ月も前から次に出る本を告知しているので、「どういう本なのかな」「なんとなく楽しそうでいいな」と思っていました。読んでみたら、世界中のいろいろな国に行っていますし、よく調べてありますし、ユーモアもあります。

 書き方も、とても上手です。人の描写がすごくおもしろくて、現地で会う人の息遣いがちゃんと感じられます。デジャブみたいな感じで「そうそう。タイの人ってやっぱりこんな感じよね」などと思えてきます。行ったことがない国でも、「なるほどこんな感じかな」と納得できました。

 ただ、オチがないのが、少し気になりました。「オランダでこういう哲学を習ったので、それを試しに次の国に行く」とか、そういう風にストーリーとして国同士がつながっているわけではないので、それぞれの国を「なぜ訪れたのか」もわからない。そのままどんどん違う国の訪問記が展開されます。幸福を求めて海外に出たのに、それぞれの国で何か結論を得ないないまま、最後にアメリカについて短くまとめられています。最初からアメリカに戻るつもりだったとしたら、青い鳥を求めて海外へ行くのもバカらしいですよね? これだけの分厚い本で、結論が「自分が生まれた自分の国が一番いい」というのもなあ…と思ってしまいました。

 全体的な文章量も私にはちょっとボリューミーでした。すごく詳細にひとつひとつの国が記されているので、半分ぐらいの量でもよかったのではないかという気がしました。「まだこんなに残っている」と思うと読み進めるのがつらくなりますが、ビーチなどで暇つぶしにのんびりと読む分にはとても楽しい本だと思います。

 そうは言っても、目を通しておくのに悪い本ではありません。内容の質も一定以上のレベルですし、よく研究しています。ただ、結論が足りないだけです。やっぱりみんなが幸せを求めているので、幸せな国を訪ね歩くことを通じて何か考察が進んだというのを見せてほしいですよね。ワイナーさん自身は、幸せになりたいという気持ちが強いわけではないような気がしています。アイスランドの例でいえば、「敗者復活ができてみんな平等な場所」なんですけど、だからと言って「他の国もみんなその方向で行きましょうよ」ということではないですよね。「アイスランドはこういう国でした。おしまい」といった、教科書みたいな感じのところがあります。この人はジャーナリストとしていろいろな研究をすることが好きで、今回はたまたま題材が「幸せ」だっただけなのではないかと思います。だから旅を通じて彼が「幸せ」について何を得たかが、うまく出てきていないのかもしれません。

 タイトルや帯にある「幸福」のテーマにとらわれずに、ただの海外旅行記だと思って読むのがいいと思います。順番通りに読む必要も、全部読む必要もないですよと言ってあげたい本です。自分の興味がある国だけぱらぱらめくって読んで、あとは放っておいてもいい。この本を通じて「幸せとは何か」を追求しようと思うとたぶん肩透かしになってしまうので、あんまりタイトルに惑わされないで気軽に手に取ってみてください。