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「広告の力」を考えさせられる1冊

2012年7月27日

『表現の技術』

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『表現の技術』
高崎卓馬
 朝日新聞出版/1680円
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著者は電通のクリエイティブディレクター/CMプランナーながらも、2009年公開の映画『ホノカアボーイ』の脚本とプロデュースを手がけ、小説『はるかかけら』も5月に発売するなど幅広い活躍を見せるクリエーター。「XYLISH」「インテル」「au」「JR東日本」などのCMを中心に、具体的に絵コンテなども開示しながら、物語性のある映像作りの方法論や物語自体の組み立て方、効果的な表現方法について丁寧に解説している。


 広告制作に大切なのは、感性やクリエイティビティではなく、基礎や努力やセオリーであることを伝えようとしているのが『表現の技術』です。広告のクリエーターは「人の気持ちの動かし方」を考えながらコピーやコンセプトを何十・何百も出すなど、気の遠くなるような努力を重ねていることがわかります。

 本の作り自体はかっこいいし、おしゃれです。初めはごく普通に、「人は笑うまえに必ず驚いている」「ズレが面白さになる」といったルールを「なるほど」と読んでいたのですが、途中から違和感が強くなっていきました。著者の自己満足感や「世界中の人が広告をおしゃれでかっこいいと思っている」感性が端々から伝わってきたからです。

 広告業界の人は「本当は小説を書きたいか映画を作りたいかのどちらか」と昔から言われ、この人もその通りです。60代のおじいさんみたいなセンスを感じてしまったのですが、そういった古臭い価値観を貫く原因は業界の作りにあると思います。広告業界そのものが、まだテレビのCM枠が少なくて枠を確保することが重要だった時代から変わっていません。規模の経済性が強い業界なので、電通や博報堂といった大手がお金の力で仕事を持っていって、クリエーターは「一番偉い広告主の意思をどう表現するか」に腐心しながら職人としての技を磨きます。海外では小さいクリエイティブハウスも作品で認められていきますが、日本では大手以外はまったく見かけません。でも業界のそういった構造について、クリエーターの人々は考えていないように見えます。

 私は家族にコマーシャルを作っている人間がいたので、広告が「おしゃれ」で「クリエイティブ」で「電通が就職したい会社NO.1」だった時代の輝きもよく知っています。そういう意味で、非常に意地悪な見方かもしれませんが、いま「広告がおもしろくない」と言われる理由がこの本からわかる気がします。広告を見る人の目も肥えてきているし、みんな「作りもの」には心を動かされたくなくなってきています。もっと素朴な、ハートから出た言葉がネットでもどこでも見られる世の中では、クリエーターが頭で考えただけの言葉が薄く見えちゃうんですよね。でもクリエーター自身は、そのことにあまり気づかない。だから広告もおもしろくないし、広告を作りたいと思う人も少なくなっているんです。

 『表現の技術』も、技術の各論は説得力もあります。でも広告自体が力をなくしてきている時代に、「人を動かすための努力」というテーマは違うなと思っちゃいました。その業界が明るかった時代に入社した人は、時代や環境の変化についていきにくいのかもしれません。広告だけでなく、製鉄業界なども同じです。同じ業界に長くいること自体が、今の世の中ではすごく危険なんだなと思いますね。年寄りくさい業界にいる人はどんどん年寄りくさくなります。国会議員がいい例で、当選時は若い人もすぐにおじさんっぽくなります。よそから「ズレて」見えることや業界自体が傾いていることも、業界の中にいるとわかりづらくなるのでしょう。

 前近代的な考えを持ち続けている広告業界は、ガス灯が電球に取ってかわられたのと同じように、終わっていく産業っぽさを感じさせます。地域活性など新しい要素をお金の力で引っ張ってきてバランスを取ろうと努力はしていますが、オールドメディアを抑えていることで新しいものが生まれる余地がありません。逆説的ではありますが、広告業界のそういった現在に渡って存在する性質を教えてくれる本だという気がしました。また、クリエイティブな職人として商売していく難しさを、ちょっとした驚きとともに強く感じた本でした。

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Profile
小林麻実(こばやし・まみ)
アカデミーヒルズ六本木ライブラリー・アドバイザー
早稲田大学法学部卒業、同大学院国際経営学修士(MBA)課程修了。東京大学大学院学際情報学府修士課程修了。同博士課程中退。マッキンゼー・アンド・カンパニーを経て、米国ユナイテッド・テクノロジーズ社において、世界15万人の社員による情報・知識の交換および創出を目指し、ヴァーチャルライブラリーを推進。「ライブラリーとは、個人が持つ情報を他者と効果的に交換し、イノベーションを生む場である」というコンセプトを構築し、2002年に六本木ライブラリーディレクター就任。著書『図書館はコミュニティ創出の「場」ー会員制ライブラリーの挑戦』(勉誠出版、2009)他。
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