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五輪・競泳コーチの金言「ぶれない自己」

2012年7月30日

寺川、加藤、上田選手が結果を出せた理由

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北島康介選手や中村礼子選手を2大会連続五輪メダリストに育てた日本代表ヘッドコーチの平井伯昌さん。

ロンドン五輪には、チームジャパンを、そして北京五輪後から指導してきた背泳ぎの寺川綾選手、

バタフライの加藤ゆか選手、自由形の上田春佳選手を引き連れ、メダル獲得に挑む。

性別も性格も能力も違う選手たちが壁にぶち当たった時、

平井さんはどのような考え方で乗り越えさせてきたのか。

世界で結果を出し続ける名将の思考法は、働く場面でも非常に参考になる。

平井さんの考え方を、8つの「名言」から紹介する。

独立心が
ぶれない自己を育てる

 2011年4月に行われた選考会で、指導する背泳ぎの寺川綾、バタフライの加藤ゆか、自由形の上田春佳が、7月に中国・上海で開催される世界選手権の切符を手にしました。ゆかと春佳は日本新記録で優勝、綾も日本記録に迫る好記録でした。

 彼女たちはなぜ結果を出すことができたのか。

 その要因はいくつかありますが、メンタルの部分が大きいと思います。2011年3月11日の東日本大震災で世情が不安定な中、“ぶれない自己”を大切にしてくれたからこそ、集中して練習に取り組むことができ、その成果を本番で発揮できたと思うのです。

 人は不安を抱えている時ほど、環境や情報に流されがちです。

 米国での合宿中に、今回の震災をテレビやネットで知った選手たちは、やはり動揺を隠せなかったようでした。その後、募金活動を始めたアスリートの存在をネットで知り、「私も何かしなくては」と考えた選手もいました。そんな状況を察しながら、私はミーティングで、こう話しました。

 「今、私たちができることとは何だろうか。君たちは日本を代表する競泳選手であり、私はコーチだ。私たちには水泳しかない。復興は長期戦になるかもしれない。だからこそ、私たちがまずやるべきことは目の前に迫った選考会できちんと結果を残すことではないのか。『日本を、国民を勇気づけるために泳ぐ』などと思わなくても構わない。『スポーツで感動や勇気を与える』というのは、結果を残した後についてくる二次的要素なんだ。まずは、自分のやるべきことをやりなさい。募金活動は帰国後、状況を正確に把握してから考えよう」

 私の話が選手の心に刺さったかどうかは分かりません。テレビやネットで入ってくる状況から心は揺さぶられましたが、彼女たちは震災前と変わらぬ集中力で練習に挑み続けてくれました。

 私はどんな時も“ぶれない自己”を大切にしてほしいと思っています。“ぶれない自己”とは、大きな困難に対峙した時の心構えです。プロのアスリートとして、「震災で情緒不安定になり、結果が出ませんでした」では言い訳になりません。

 私が好きな小説『坂の上の雲』の一節に、陸軍大学に通う秋山好古が、進路を相談してきた弟の真之に、「一身独立して一国独立」という言葉を伝える場面があります。これは、福沢諭吉の『学問のすゝめ』から引用したものですが、一人ひとりが独立していれば、国も独立し、繁栄するという意味です。 

 明治維新の時、日本人は自分たちで国を造り上げていくという強い意識を持ち、それが国を発展させる力になりました。今の日本は、もしかしたらそうした時代に重ね合わせることができるかもしれません。危機的状況と言われる今だからこそ、「社会に対して自分は何ができるか」をよく考え、そのうえで長期的な視野に立って行動することが必要です。そのためにも、一人ひとりの“ぶれない自己”が大事になると思います。

(※『突破論』より)

『突破論~世界で勝ち続ける秘訣、60の“金言”』
日経BP社、1470円(税込)

北島康介選手や中村礼子選手を2大会連続五輪メダリストに育て、伸び悩んでいた寺川綾選手をロンドン五輪で金メダルが狙えるほどに復活させた、競泳日本代表ヘッドコーチ平井伯昌氏の思考法が満載の一冊。結果が出せず、伸び悩んでいる選手を復活させるために、名将は何を考え、どのような指導をしてきたのか。選手のやる気と能力を引き出し、限界を乗り越えさせた育成論を、種目や性別、性格、年齢も違う選手たちの指導例からテーマ別に紹介していく。悩みながらもトライ&エラーで導き出した“平井式メソッド”は、アスリートだけでなく、ビジネスパーソンの教育・成長にきっと役立つはずだ。


構成/高島三幸

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Profile
平井伯昌
平井伯昌(ひらい のりまさ)
1963年東京都生まれ。早稲田大学社会科学部卒業後、東京スイミングセンターに入社。アテネ・北京五輪の2大会で、北島康介選手に100m、200m平泳ぎで金メダル、中村礼子選手に200m背泳ぎで銅メダルをもたらす。北京五輪後、競泳日本代表ヘッドコーチに就任。2011年上海世界選手権で、北京五輪後から指導している寺川綾選手が50m背泳ぎで銀メダルを獲得。寺川選手のほかに、バタフライ日本記録保持者の加藤ゆか選手、自由形日本記録保持者の上田春佳選手といった教え子をロンドン五輪に送り込む。現在、『日経ビジネスアソシエ』で「平井伯昌の“金メダリスト”育成塾」 を連載中。新著『突破論~世界で勝ち続ける秘訣、60の“金言”』(日経BP社)を発売。平井レーシングチームのHPは⇒こちら/写真:(c)小川拓洋
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