北島康介選手や中村礼子選手を2大会連続五輪メダリストに育てた日本代表ヘッドコーチの平井伯昌さん。

ロンドン五輪には、チームジャパンを、そして北京五輪後から指導してきた背泳ぎの寺川綾選手、

バタフライの加藤ゆか選手、自由形の上田春佳選手を引き連れ、メダル獲得に挑む。

性別も性格も能力も違う選手たちが壁にぶち当たった時、

平井さんはどのような考え方で乗り越えさせてきたのか。

世界で結果を出し続ける名将の思考法は、働く場面でも非常に参考になる。

平井さんの考え方を、8つの「名言」から紹介する。

ピンチの時こそ
リカバリー能力を鍛えるチャンス

 少し昔の話になりますが、2010年のサッカーワールドカップでの日本代表チームの活躍は目覚しいものでした。チーム競技と個人競技の違いはあれど、同じ指導者として、メディアを利用した前向きなコメントで選手を鼓舞し、有言実行を成した岡田武史監督の采配は、さすがと言わざるを得ません。カメルーン戦で勝利したおかげで、どん底だった状態が「自分たちでもいけるぞ!」という自信に変わりました。成長のターニングポイントがそこにあったように思います。

 どん底の状態に陥った時は、開き直りが大事です。それは投げやりとは違います。底辺にいる状態を事実として受け入れられた時、やるしかないというシンプルな思考に変わる。試合の日は待ってくれませんから本番に向かって準備するしかないのです。

 そんな切羽詰まった状況では、周囲の雑音が消え、這い上がるためには何をすべきかだけを考えるようになります。崖っぷちに立たされた時こそ、思わぬ力が発揮される。俗に言う「火事場のばか力」を利用して、今すぐできることを精いっぱいやれば、短時間でのリカバリーは可能だと思います。

 それには、絶対に結果を残したいという選手の諦めない気持ちと集中力はもちろん、指導する側の原因を見抜く力と適切な指示が、重要になってきます。

 北島康介は高校2年の時、日本選手権平泳ぎ200mで、余裕で決勝に残る実力があったにもかかわらず、予選落ちをしました。原因は、日本選手権の前の週に、高校代表として都大会に出場したことにあります。康介が所属する高校水泳部の顧問と私がスケジュールをきちんと共有していなかったのです。疲労により、日本選手権での泳ぎは、手と足のタイミングが微妙にずれ、フォームが崩れてしまっていた。それがタイムを落とした原因です。

 最低な結果を出した後でも、次の100mの予選はすぐやってくるので落ち込んでいる暇はありませんでした。200mの予選が午前に終わり、我々は午後にはプールで練習していました。その翌日もです。コンディションを整えるより、泳ぎを修正する方が、短時間で元に戻す最善策だと私が判断したからです。

 1本1本タイムを計り、泳ぎを修正しつつ、「短時間でやるべきことはすべてやろう」と2人とも必死でした。200mが最低の結果だったからこそ、「よくするにはどうすればいいか」だけに集中できたのだと思います。

 必死に修正した結果、100mで康介はベストタイムを出して3位に入賞しました。この時のリカバリー経験は、後々五輪へ挑む際の大きな自信になりました。短時間で結果を出したという成功体験は、どんなピンチに立たされても慌てずに対処できる力を養う。どん底に陥った時こそ、リカバリー力を鍛えるチャンスと思い、必死にできることをする。それが飛躍の第一歩ともなります。

(※『突破論』より)

『突破論~世界で勝ち続ける秘訣、60の“金言”』
日経BP社、1470円(税込)

北島康介選手や中村礼子選手を2大会連続五輪メダリストに育て、伸び悩んでいた寺川綾選手をロンドン五輪で金メダルが狙えるほどに復活させた、競泳日本代表ヘッドコーチ平井伯昌氏の思考法が満載の一冊。結果が出せず、伸び悩んでいる選手を復活させるために、名将は何を考え、どのような指導をしてきたのか。選手のやる気と能力を引き出し、限界を乗り越えさせた育成論を、種目や性別、性格、年齢も違う選手たちの指導例からテーマ別に紹介していく。悩みながらもトライ&エラーで導き出した“平井式メソッド”は、アスリートだけでなく、ビジネスパーソンの教育・成長にきっと役立つはずだ。