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2つの顔を持ち合わせたガイドブック

2012年7月13日

『海士人』

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『海士人』
COMMUNITY TRAVEL GUIDE編集委員会
 英治出版/840円
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島根県・隠岐の島にある海士町は、訪れるのに本土から丸一日かかるにも関わらずリピーターが非常に多い。奈良時代の後鳥羽天皇や後鳥羽天皇をまつる神社の宮司、プロダイバーや「島まるごと図書館構想」の司書、漁師やブランド牛のファームなど、町を構成する総勢148人にスポットを当てて町を紹介するガイドブック。「人に出会う」旅のスタイルを提案し、地域経済の活性化を図るガイドシリーズとして、巻末では候補地の募集もしている。


 いつもチェックしている英治出版の新刊の中で「なんだろう。これは?」と思ったのが『海士人』です。社会貢献や地球を考える本、ソーシャルな本をたくさん出している英治出版は硬い本が多いので、「珍しく軽いな」って。「COMMUNITY TRAVEL GUIDE」シリーズの一冊めで、雑誌みたいな作りなのに1冊の「本」として出しているという新しさがあります。

 海士の町も島も、私はこの本を読んで初めて知りました。最初の「どれくらい遠いか」「どれだけ小さな町か」というのが、まずインパクトがありましたね。それから、カリスマ町長が町の「自立促進プログラム」の一環として移住者の定住促進にも力を入れていて、現在では2400人の1割が島外からの移住者だというのもすごい。もともと財政の建て直しを図った話も全然知りませんでしたし、「高校魅力化プロジェクト」で全国からくる留学生が全校生徒の3割だという「島留学」も、「今はそういうことをやっているんだ」とか、驚く話ばかりでした。

 以前に紹介した『ローマ法王に米を食べさせた男』もそうでしたが、名プロデューサーがいることで地域経済振興はよく回るようになります。この本も「地域活性化の成功例」としても読めるし、普通に旅行雑誌みたいにぱらぱらめくるだけでも楽めます。そういったいろいろ読み方に耐えるように、作る人は考えたのでしょうね。この「COMMUNITY TRAVEL GUIDE」の編集委員会は主体が博報堂なのでちょっと広告くささを感じてしまうところもあるんですけど、やっばりプロの手でないとこの町の魅力が引き出せないところはあると思います。人からうまく話を聞き出していますし、地域活性化の成功例として全体がきちんとまとめられています。

 ガイドブックとしては、「ないものはない」というこの町のスローガンをうまく表しています。ガイドブックに書いてある通りに町の人にあって話を聞きたいと思わせる、ある意味では自分の発見を狭めちゃう危険もあるくらいに、よくできている本でした。小さい島ですけど本当にバラエティ豊かにいろんな人たちがいる様子を余すことなく押さえています。魚屋さんもいれば八百屋さんもいて、個人個人が何かを作ったり、海産物を商品化したり。本当にいろいろなアイデアが出ていて、みんなすごく楽しそうです。そういう人たちで成り立って完結している仕組みが、小さい島だから見えやすいんです。

 

狭い島だからこそ、産業が細かく分かれていて分担しています。社会は同じ仕事の人だけでは成り立たなくて、いろいろな仕事をする人がいなくちゃいけないことも伝わります。大きい都会にいると、そういったことが見えなくなってしまいがちです。隣の人は何をしているかわからないし、隣の人の仕事が私の生活とどう結びついているのかという関係が見えません。海士の町では、食べるものが誰の手を通ってきているのかが見えます。都会だと遠くなってしまう関係性が、近い距離だと凝縮されるからはっきりと見えてきます。

 だから、トラベルガイドではあるんですけれども、コミュニティについても考えさせる本です。地域活性化がガイドブックのシリーズになるくらい、地域やつながり、人というのがキーワードになる時代なんですね。世の中には地方に魅力を感じる人も多いので、この本を見て、「移住したい」と思う人もすごくいるだろうなとも思います。逆に、こういう狭いコミュニティの中で生きる息苦しさもあるわけで、そういうバランスを考えることにもなります。それを考える場所として海士の町を非常に魅力的に紹介している本としても、おもしろいですよね。

構成/土田 みき=ライター

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Profile
小林麻実(こばやし・まみ)
アカデミーヒルズ六本木ライブラリー・アドバイザー
早稲田大学法学部卒業、同大学院国際経営学修士(MBA)課程修了。東京大学大学院学際情報学府修士課程修了。同博士課程中退。マッキンゼー・アンド・カンパニーを経て、米国ユナイテッド・テクノロジーズ社において、世界15万人の社員による情報・知識の交換および創出を目指し、ヴァーチャルライブラリーを推進。「ライブラリーとは、個人が持つ情報を他者と効果的に交換し、イノベーションを生む場である」というコンセプトを構築し、2002年に六本木ライブラリーディレクター就任。著書『図書館はコミュニティ創出の「場」ー会員制ライブラリーの挑戦』(勉誠出版、2009)他。
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