第2回講座の講師は、文化服装学院の元学院長、小杉早苗さん。「日本の伝統文化とファッション~日本のデザイナーが発信するデザインの核心・原点」と題した講演では、日本人の独特の感性のルーツが紐解かれた。

長い歴史のなかで育まれた美意識が独特のデザインを生む

小杉早苗さん
小杉早苗さん
文化服装学院デザイン科卒業。文化服装学院専任教授などを経て、2003年、文化ファッションビジネススクール校長に就任。現在、学校法人文化学園顧問、文化ファッション大学院大学ファッションクリエイション専攻教授を兼務。ほかに経済産業省構造改革審議会審議委員などを務める。著書に『ミセスの普段着』『ミセスのお出かけ着』『エレガントVSカジュアル』(文化出版局)などがある

 今、世界のファッション界の方々からは、よく「日本のデザインが面白い。どうして日本からそうしたデザインを発信できるのか」と問われます。そんなとき、私はいつも「持って生まれたものがにじみ出るものなんです。それが文化なんですね」と答えます。

 日本には、飛鳥・奈良時代から続いてきた文化があります。文化服装学院では、奈良県のテキスタイルをつかったコスチュームを制作し、それを奈良県の高校生に着てもらうコスチュームショーを奈良県で開催しており、今年で7回目を迎えました。奈良県で培われてきた文化と出合い、そこからウチの学生たちも刺激を受け、毎年、斬新なコスチュームが生まれて、多くの人々から注目を集めています。

 農耕民族である日本人は、自然の姿に美しさを感じてきました。しかも、その美意識は独特。パッと咲いて、さっと散る桜の花、ほんのわずかな期間だけ光り輝く蛍……。そういったはかなさや潔さに、日本人は「美」を感じてきました。

 「幽玄」「雅」「粋」「侘び寂び」といった言葉にも、日本人の美意識はよく表れています。また、以前の日本家屋には必ずあった「床の間」は、何に利用されるわけでもなく、ただ、美を眺めて感激する空間。水の流れもまた、日本人と西洋人とでは違います。日本人は滝などに見られるように、上から下へ流れるものを美しいと感じます。一方で、西洋人は噴水に代表されるように、下から上へ上がる水が“美”。

 今、パリコレで活躍するファッションデザイナーを見てみると、出身国別では日本人がいちばん多いんです。飛鳥・奈良時代から脈々と続く世界に稀な感性の伝承が、そうさせているのかもしれませんね。

レア体験! 古代衣装で身も心もヤマトナデシコに

 里中満智子さんの文化や歴史的なお話と小杉早苗さんのファッションのお話に加え、参加者たちの心を捉えたのが天平衣装の着付け体験だ。

 今回、主催者の奈良県が用意した衣装は、奈良時代の貴族の衣装。高貴な衣装なだけに、色とりどりで鮮やか!当日は説明を聞きながら、上着(ブラウス)を着て、その上からベストを着て、スカートをはく。帯は結び目を隠すように垂らすのがポイントで、ショールのようなヒレをふわりとかけて、小道具を持てば古代のヤマトナデシコに大変身。

説明を聞きながら、ワイワイと古代衣装の着付けにトライ!一人ひとり色や柄が違うので、みんなが着ると会場は一気に華やかムードに
説明を聞きながら、ワイワイと古代衣装の着付けにトライ!一人ひとり色や柄が違うので、みんなが着ると会場は一気に華やかムードに
説明を聞きながら、ワイワイと古代衣装の着付けにトライ!一人ひとり色や柄が違うので、みんなが着ると会場は一気に華やかムードに

 「着物より着やすくて、動きやすい」「実際に古代衣装を着られて嬉しい」といった声があちこちで聞かれる。友達同士で自撮りしたり、お互いに写真を撮りあったり……。“ヤマトナデシコ”になりきって、里中さんや小杉さんのお話に聞き入った。

本来は上がれない能楽堂の舞台に立ち、記念撮影!手に持っているうちわのような物は翳(さしば)といい、高貴な人の顔を隠すのが役目という
本来は上がれない能楽堂の舞台に立ち、記念撮影!手に持っているうちわのような物は翳(さしば)といい、高貴な人の顔を隠すのが役目という
本来は上がれない能楽堂の舞台に立ち、記念撮影!手に持っているうちわのような物は翳(さしば)といい、高貴な人の顔を隠すのが役目という
本来は上がれない能楽堂の舞台に立ち、記念撮影!手に持っているうちわのような物は翳(さしば)といい、高貴な人の顔を隠すのが役目という

 みんなが着付け体験を楽しんだ古代衣装は、約1300年前に奈良県で誕生したもの。当時、この地は日本の政治や経済の中心として栄えた都であり、ここが文化の発信地でもあった。その栄華は、今も奈良県のあちらこちらで感じることができる。この地を歩いて、万葉人の暮らしぶりに思いを馳せてみるのも一興だ。

 日本人が生まれながらにして持っている感性が生まれた場所、奈良県。そこには、日本で初めて世界遺産に登録された法隆寺をはじめ、古代の歴史を肌で感じられる遺産がたくさん残されている。そんなしっとり落ち着いた古都を、天平衣装をレンタルして歩くもよし、『古事記』や『日本書紀』に登場する歴史スポットを訪ねるもよし。“日本人のルーツ”を感じることができる奈良県で、きらりと光る何かにインスパイアされてみてはどうだろう。

提供/奈良県 地域振興部 文化資源活用課 記紀万葉プロジェクト推進係
奈良市登大路町30番地 TEL:0742-27-8975