体にいいと思って毎日野菜を食べていても、その食べ方が「栄養ロス」だとしたら……?話題の『その調理、9割の栄養捨ててます!』の監修者に、ちょっとした工夫で野菜のパワーが激変する食べ方のコツを教わった。

 「野菜をたくさん食べることは大事。でも、野菜からしっかり栄養をとるには、食べ方にコツがある」。そう話すのは東京慈恵会医科大学附属病院で栄養指導を行う管理栄養士の濱裕宣さんと赤石定典さんだ。ちょっとしたことで、本来とれたはずの栄養の9割近くを逃してしまうこともあるのだという。無駄にせずしっかりとるには、野菜ごとの扱い方を知っておくことが重要だ。

 野菜の栄養を逃さないポイントは4つ。一つ目は、切り方。細かく切るか大きく切るか、皮をむくかむかないかで、とれる栄養が大きく変わる。二つ目が調理法。成分によっては調理法が異なることで吸収が変わってくる、野菜ごとに工夫が必要だ。三つ目が保存法だ。野菜によって冷蔵庫内の置き場所が違ってくる。そして四つ目が、選び方。パワフルな野菜を選ぶコツを覚えておこう。

 「調理済みのサラダやカット野菜は、安全衛生管理の面から洗浄・殺菌を繰り返しているため、その過程で栄養が減っている可能性がある。野菜の栄養を丸ごととるのであれば、自分の手で調理するのが最も効率がいい」(赤石さん)。

 身近な旬の野菜を中心に、そのパワーを余すところなくいただく食べ方&調理法を、詳しく紹介する。

【切り方】皮ごと、切る向き&切る順番で栄養がアップ

 「トマトやニンジンなど、一般的に野菜は皮に栄養が豊富。野菜は、できるだけ皮ごと食べるのがいい」と濱さんはいう。

 切り方も大切だ。例えば、「ピーマンは繊維に添って切ると栄養を逃しにくい」(赤石さん)。一方で、タマネギやニンニクなど、細かく切る方が栄養が増える野菜もある。この機会に覚えておこう。

 もう一つのポイントが「生長点」だ。「植物が成長しようと、盛んに細胞分裂を繰り返している部位で、栄養が豊富。積極的に食べるといい。保存する際は、生長点を切り分けておかないと、栄養を消費してしまうので注意して」(濱さん)。

【ニンジン】栄養がたっぷりの皮ごと切ろう

可食部100gに9100μgものβカロテンを含むニンジン。実はこの「可食部」には皮も含まれている。皮には抗酸化成分も豊富なので、皮ごと食べるのがお薦め。「どうしても皮をむくのなら、薄くむくように」(赤石さん)。グラッセなどじっくり加熱する料理なら、皮ごと無理なく食べられる。生長点は葉から付け根の部分。

【ピーマン】皮ごと細く縦切りがお薦め

ピーマンに含まれる渋み成分のクェルシトリンは、ポリフェノールの一種で抗酸化作用がある。効果的に摂取するには「縦切り」がお薦め。繊維に添って切ることで栄養が流出しにくく、加熱調理に向く。生で食べるのなら、食感が柔らかくなる輪切りがいい。栄養が流出しやすいので、切ってから時間をおかずに食べよう。パプリカも同様に。

【タマネギ】みじん切りが正解、切った後は10分放置

タマネギの辛み成分、硫化アリルは、空気に触れることで“血液サラサラ成分”のアリシンに変化する。みじん切りにして、10分ほど空気にさらそう。アリシンを増やす切り方は、繊維と垂直に包丁を入れてから、90度回転して繊維と平行に切る。生長点は芽が出る部分。

【ニンニク】みじん切りより、すりおろして10分放置

昔から滋養強壮にいいといわれる野菜の代表選手、ニンニク。パワーの秘密はタマネギ同様に辛み成分の「硫化アリル」。空気に触れさせてアリシンを増やすには、できるだけ細かく切るのがポイントだ。薄切りよりみじん切り、みじん切りよりすり下ろしが◎!

【ブロッコリー】生長点はカット、芯も食べる

花蕾の房には、がん抑制作用も報告されている成分スルフォラファンが豊富。ただし、ここは“生長点”なので、すぐ食べないなら、房の部分だけカットすれば栄養がキープできる。また、茎にはビタミンCや食物繊維が豊富。「薄くスライスして加熱すればおいしく食べられる」(赤石さん)。

【ニラ】根元はみじん切り、葉はザク切りにする

ニラは部位によって切り方を変えるのがコツ。ビタミンCが豊富な葉先の部分は、栄養の流出を防ぐため、細かく切らずにザク切りに。根元には硫化アリルが豊富。血液サラサラ作用のあるアリシンを増やすために細かく切ろう。

【調理法】最強は蒸し野菜! 加熱で吸収が変わる

 調理のポイントは加熱の仕方だ。最も栄養を逃さない調理は“蒸し野菜”。濱さんも赤石さんも太鼓判を押す、栄養を余すところなくとれる方法だ。

 また、野菜に含まれるビタミンにはビタミンB群やCなどの水溶性ビタミンと、ビタミンA、Dなどの脂溶性ビタミンがある。ホウレン草やキャベツなどの水溶性ビタミンを多く含む野菜は、ゆでると栄養がゆで汁に溶け出てしまう。「生か蒸し焼きで食べたい。ゆで汁ごと食すスープもお薦め」(赤石さん)。

 脂溶性ビタミンを多く含む野菜は、油と一緒に食べることで栄養吸収率が一気に高まる。油で炒めるほか、ドレッシングやタレに油を活用して。「アマニ油などn-3系脂肪酸が豊富な“いい油”を使おう」(濱さん)。

【ブロッコリー・ホウレン草】電子レンジの加熱でビタミンCを確保

「ホウレン草やブロッコリーは、レンジ蒸しがお薦め。ラップで覆い、電子レンジでサッと調理すれば、ビタミンも流出しない」(赤石さん)。また、ブロッコリーは「切って5 分ほど放置」(濱さん)が正解。がん抑制作用があるスルフォラファンの活性が高まる。

【アボカド・カリフラワー】生で食べることでビタミンの喪失が防げる

アボカドとカリフラワーは生食が最強。アボカドは、ビタミンEやB群、C、カリウムなど、栄養の宝庫だが、「加熱すると激減する」(濱さん)。カリフラワーも生で食べるほうが、ビタミンCが多くとれる。スライスしてサラダなどと一緒に食べるのがお薦め。

【キャベツ・タマネギ】スープにして栄養を丸ごと食べよう

生では大量に食べにくいキャベツやタマネギは、加熱しても栄養が丸ごととれるスープがお薦め。キャベツには、ビタミンCのほか、胃の調子を整えるビタミンUが含まれる。芯も捨てずに煮込もう。タマネギに含まれる血液サラサラ成分、ケルセチンやアリシンは水に流出しやすいので、スープがベスト。

【ニンジン・ナス】油で炒めてβカロテン、ナスニンの吸収アップ

緑黄色野菜に含まれ、美肌にいいβカロテンは、油と一緒にとれば吸収率がぐんと高まる。ニンジンなら皮ごと乱切りにして油で炒めるのが最強の食べ方。ナスの皮の色素成分はポリフェノールのナスニン。油で炒めるとコーティング効果で流出を防げる。

実は栄養の宝庫! 今まで捨てていたワタや種も食べよう

ワタや種など「捨てるのが常識」と思い込んでいた部位は、“栄養の宝庫”。「ミネラル豊富なカボチャの種はから煎りしておやつに。カリウム豊富なトウモロコシのヒゲと芯は、ご飯と一緒に炊き込むと風味豊かに仕上がる。ピーマンのワタと種には血栓予防作用のあるピラジンが豊富。取らずに肉詰めにするのがお薦め」(赤石さん)。

この人に聞きました
濱裕宣さん
東京慈恵会医科大学附属病院栄養部 管理栄養士
佐伯栄養専門学校卒業。東京慈恵会医科大学附属病院栄養部課長として、病院食の栄養管理、病棟での栄養指導を行う。栄養管理の視点から、『慈恵大学病院のおいしい大麦レシピ』(出版文化社)など多数の書籍監修に関わる。
赤石定典さん
東京慈恵会医科大学附属病院栄養部 管理栄養士
華学園栄養専門学校卒業後、東京慈恵会医科大学附属病院栄養部に勤務。濱さんと共に、病院食の献立作成や、体調や生活習慣に合わせた栄養管理指導を行う。栄養とおいしさの両面を満たす調理法のアイデアも豊富。

取材・文/宮本恵理子、熊介子(編集部) 写真/鈴木正美

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