デジタルツールに追われ、忙しい毎日を送る現代人の心の不調に効果があると、専門家も注目するマンダラ塗り絵。夢中になって彩色するうちに、日常の雑音から離れ無心になる……。そんな静かで奥深い時間を味わいたい。

 数年前から続く“大人の塗り絵”ブーム。中でも幅広い世代に支持されて、一度やるとヤミツキになるといわれるのが「マンダラ塗り絵」だ。

 マンダラ塗り絵の国内の第一人者で、慶應義塾大学非常勤講師の正木晃さんによると、「学生たちに塗ってもらったところ、ストレスなどの心身の不調が改善したというレポートが多々あった」という。「その理由は、手作業によって脳細胞が活性化されることや、抽象的な図柄だから無心になって塗ることでき、結果、リラックス効果や達成感が得られるためと考えられる」(正木さん)。

 医師で女子美術大学非常勤講師の桜井竜生さんも、マンダラ塗り絵を講義に取り入れていて、「性格や個性だけではなく、そのときどきの心理状態を表す心の鏡のようなもの」という。大きな傾向として、元気があるときは仕上がった絵の色のトーンが明るく、逆に落ち込んでいるときは暗いトーンになる。色ごとの意味については、本誌の表を参考にしよう。

 「マンダラは対称性が極めて強い図柄。心身のバランスが整っているとバランスよく塗れ、多様な色彩感が表れる」と正木さんは言う。逆もまた然りだが、続けるうちに変わっていく。「塗る時間が自分を見つめる時間になり、心身両面の問題に解決の糸口が見つかる。その結果、自己認識が深まる。いわゆる『本当の自分』と出会えるため、状況が改善される」(正木さん)。

 今回は初めてでも親しみやすい、正木さん作の図柄も掲載!

 塗り方は本誌にまとめたとおり。難しい決まりはなく、そのときの気分を大切に。まずは1枚、試しに塗ってみましょう。「お気に入りの一作ができたら、額に入れて目につくところに飾っておくといい」(桜井さん)。

What's MANDARA?
庶民の間でも仏教の真理を伝えるシンボル

マンダラは約1500年前のインドで、仏教の最終走者にあたる密教が生んだ、仏教の真理を表すシンボル。日本やチベット、ネパールなどに伝承され、庶民の間にも普及。「マンダラは仏の眼から見た世界の構造を表す。私たちの目には無秩序に映る世界も、実は物心両面で完璧な秩序に満たされ、無意味なものは一つもなく、平和や喜び、叡智に満ちているという真理を象徴している」(正木さん)。

1. 手を動かしながら脳が活性化され自覚しにくい気持ちが見える化する
手作業には脳細胞を活性化する効果があり、塗りながら、ふとアイデアが思い浮かんだり考え事がまとまりやすい。

2. 抽象画だから無心に彩色でき、達成感とリラックス効果が大きい
幾何学模様のような抽象画だから塗ることだけに集中でき、塗り終わった後の達成感とリラックス効果を得やすい。

3. 選ぶ色で、気持ちをアップしたりクールダウンしたりもできる
元気がないときは暖色系、冷静さが欲しいときは寒色系など、選ぶ色によって心の状態をセルフコントロールできる。

1枚描くと心の状態がわかり、続けると心の変化に気づける

上の3枚のように、同じ図柄でも塗り方によってまったくの別物に見えるのが面白いところ。塗り始めると夢中になって中断しにくくなるから、1~2時間、時間を確保してから始めるのがお薦め。

(1) いま塗りたい図柄を直感で選ぼう
(2) 使いたい色を5色選ぼう。――迷ってしまったら、マンダラ基本の5色を
(3) 塗り始める前に、今の気持ちを書きとめる
(4) テレビやスマホの電源はOFF
(5) さぁ、自由な気持ちで彩色をスタート

この人たちに聞きました
正木 晃さん
慶應義塾大学文学部非常勤講師
国際日本文化研究センター客員助教授などを経て現職。専門は宗教学。マンダラ塗り絵を考案し、20年以上前から講義に活用。著書『カラーリング・マンダラ』、最新訳書『フィンチャーのマンダラ塗り絵プレミアム』(ともに春秋社)など。

桜井竜生さん
医師 漢方専門医
女子美術大学非常勤講師

大阪市立大学医学部付属病院、米国University of Louisville医学部付属病院、北里大学東洋医学総合研究所漢方診療部を経て現職。近著『カラダにいいことをやめてみる』(講談社)、『病気にならない生き方・考え方』(PHP文庫)。

取材・文/茅島奈緒深、写真/高田浩行、構成/太田留奈(編集部)、デザイン/ディッシュ

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