“恋バナ収集ユニット”桃山商事のメンバーが、恋愛の悩みに効く1冊を紹介していく新感覚のブックガイド『桃山商事の「恋愛ビブリオセラピー」』!

今回のお悩み
・身近な人ほど雑に扱ってしまいがち
・良かれと思ってやったことで、しばしば相手を不快にしてしまう
・嫌だと思うことがあっても、つい我慢してしまう
・対人関係でストレスを溜めてしまいがち
・あまり好きでない人とも無理してつき合ってしまう
そんな悩みに効く1冊
『ユマニチュード入門』
(著=本田美和子、イヴ・ジネスト、ロゼット・マレスコッティ/医学書院)

なぜこの本が恋愛に関係あるのか?

■「認知症ケア」に関する専門書

 こんにちは、桃山商事の清田です。今回は私の番ということで、『ユマニチュード入門』という、ちょっと耳慣れないタイトルの本をご紹介いたします。

 これは2014年6月の発売以降、一部で大きな反響を呼び、「NHKスペシャル」を始めこれまで何度もメディアに取り上げられている話題の書なのですが、言葉の意味を知らない人にとっては、一体何に“入門”するのか、検討すらつかないかもしれません。

 本書は、医学書院という版元から出ていることからもわかる通り、「医療」に関する専門書です。そして「ユマニチュード」とは、フランスで生まれ、その劇的な効果から世界に広まっていった“認知症ケア”の技法です。要するに『ユマニチュード入門』は、主に看護や介護の現場で働く人に向けて書かれた「技術書」というわけです。

 そんな本書が、なぜ“恋愛”に役立つのでしょうか?

■機械的なケアから人間的なケアへ

 ユマニチュード(Humanitude)という言葉は、「人間らしい状況」を意味するフランス語です(Human+「性質・状態」を表す接尾辞tude)。これがなぜ認知症ケアの技法なのか、本書にその端的な定義が説明されているので、下記に引用してみます。

〈さまざまな機能が低下して他者に依存しなければならない状況になったとしても、最期の日まで尊厳をもって暮らし、その生涯を通じて“人間らしい”存在であり続けることを支えるために、ケアを行う人々がケアの対象者に「あなたのことを、わたしは大切に思っています」というメッセージを常に発信する──つまりその人の“人間らしさ”を尊重し続ける状況こそがユマニチュードの状態であると、イヴ・ジネストとロゼット・マレスコッティは1995年に定義づけました。これが哲学としてのユマニチュードの誕生です〉

 高齢化によって認知症患者が増えていく一方、人手と時間が慢性的に不足している看護や介護の現場において、しばしば起こりがちなのが“ケアの業務化”だといいます。例えば、気の進まない患者さんを無理やりお風呂に入れたり、ゆっくりしか歩けない患者さんを車いすに乗せて運んだり。職務をスケジュール通り、ルール通りに遂行しようとするあまり、ケアを「する側」の都合で押し進めてしまう──。

 この、言わば“機械的”とも取れるケアに疑問を投げかけ、「される側」の目線に立ち帰り、「相手を人間として扱うケアとはどういうものか?」を突きつめたメソッドがこのユマニチュードというわけです。

■常識的なことしか書かれていないけど……

 ユマニチュードが説く具体的なメソッドは次ページで紹介したいと思いますが、最初に押さえておきたいのは、「ここには極めて“常識的”なことしか書かれていない」ということです。相手の目を見て話しましょうとか、相手に触れるときは優しくとか、そのくらい常識的なことばかりです。

 しかし、これは本当に本当に大切なことなのでデカ文字&太字で引用しますが、本書の帯にはユマニチュードの本質をズパッと表現したこんなコピーが踊っています。

この本には常識しか書かれていません。
しかし、常識を徹底させると革命になります。

 この連載がテーマにしている恋愛でも、「相手を“人間らしく”扱う」というのは言うまでもなく常識的かつ不可欠なことです。そのことに異論を唱える人はいないでしょう。しかし、はたして我々はそれをできているでしょうか? それがどういうことで、なぜそうしなければならないのか、はたして我々は理解しているでしょうか?

 常識(=相手を“人間らしく”扱うこと)を徹底するのが“革命”になるのは、それだけ難しいことだからに他なりません。そのことを実感し、「自分はできているか?」と問い直すきっかけになるのが本書です。これが今回『ユマニチュード入門』を取り上げた理由です。