“恋バナ収集ユニット”桃山商事の清田代表と森田専務が、恋愛の悩みに効く1冊を紹介していく新感覚のブックガイド『桃山商事の「恋愛ビブリオセラピー」』。

今回のお悩み
・自分に自信が持てない
・自己肯定感が低い
・歳を重ねることに不安がある
・自分の話をすることが苦手
・過去に思い出したくない失恋経験がある
・恋愛で傷つくのが怖い
そんな悩みに効く1冊
『人生山あり谷口』
(著=谷口菜津子/リイド社)

この本がなぜ恋愛と関係あるのか

■谷口菜津子が描く異色すぎる登山マンガ

 こんにちは、桃山商事の清田です。当連載は前回から森田・清田が交代で担当するリレー形式で行っていますが、初の清田回ということで、初めてマンガ本を取り上げてみたいと思います。

 今回ご紹介するのは、谷口菜津子さんの新刊『人生山あり谷口』です。著者といえば、私小説ならぬ“私マンガ”とも言うべき作風が人気のマンガ家で、恋人や友人との日常や将来に対する不安など、人生の悲喜こもごも(主に悲……)をかわいいタッチの絵柄で赤裸々につづっていきます。

 この『人生山あり谷口』は、タイトルに「山」の字が入っているように“登山”がテーマの作品です。著者は「ネガティブ」で「インドア」で「不規則でいいかげんな生活を送って」いる人間を自認しており、山登りからはおよそ縁遠いイメージがあります。谷口マンガの読者にとっては「なぜ登山!?」という驚きがあったかもしれません。

 登山マンガといえば、山岳救助の仕事を描いて映画化もされた往年の名作『』(石塚真一/小学館)や、“山ガール”の火つけ役として人気のイラストレーターによる『ひとり登山へようこそ!-女子のための登山入門』(鈴木みき/平凡社)などが有名です。これらに象徴されるように、登山マンガは「人間の命を奪いかねない自然の厳しさ」か、最近のトレンドである「健康・自己啓発・ファッショナブル志向」のいずれかが一般的なテーマになりますが、『人生山あり谷口』はそのどちらでもない(あるいはどちらでもある?)という“異色すぎる”登山マンガになっています。

■登山に織り込まれた“谷口さんの個人史”

 では、著者はこの作品で何を描いているのでしょうか。谷口さんは前書きでいきなりこう述べています。

〈この本は、これから本格的に山を登ろうとする方の参考にはならないかもしれません。しかし、しばしば山は人生に置き換えられて語られますが、その点においては立派な山登りのマンガになっていますので、安心してお読みください。〉

 本書の特徴は、谷口マンガの真骨頂である「徹底した自分語り」です。挑戦するのは高尾山(標高599m)を始め、生まれ故郷・神奈川の頭高山(ずっこうやま/標高303m)など比較的登りやすい首都圏近郊の低山がメインですが、初心者として感じたことや考えたこと、登山をする中でよみがえってきた様々な記憶、一緒に登った友人や仕事仲間たちとのおしゃべりなど、自身に起きたことを克明に記していきます。

 特に、「フリーランスのマンガ家として生きる独身の20代女子」という状況から生じる不安の吐露は真に迫るものがあります。いつまでも若いままではいられない。同級生との差が開いていくような気がする。ちゃんと仕事を続けていけるだろうか……。

 山を登る中でわき起こるいろんな感情と向き合い、それを何とか乗り越えていこうと奮闘するその姿は、まさに『人生山あり谷口』というタイトルを体現しているかのようです。登山体験に織り込まれた“谷口さんの個人史” がこの作品の魅力と言えます。

(C) 谷口菜津子/リイド社
(C) 谷口菜津子/リイド社

 当連載は「恋愛に関係ないけど、恋愛にめっちゃ役立つ本」を紹介するというコンセプトですが、本書を紹介したいと思った理由もまさにそこで、これが恋愛にも不可欠な「自分自身を徹底的に見つめ、自分の人生を物語ること」の大切さを教えてくれる一冊だと感じたからです。