「イジメ」に近い「イジり」を受けていた澤部さん

 澤部さんは学生時代から不良生徒にからかわれたり、「イジメ」に限りなく近い「イジり」を受けたりすることも多かったそうです。そんな澤部さんの悲しい実体験が、この漫才に生かされているのかもしれません。「ノリボケ漫才」を武器にして、彼らは2009年、2010年に2年連続で「M-1グランプリ」の決勝に進出しました。

 その後、しばらくはコンビでの活動が続いていましたが、徐々に澤部さんが単独でテレビに出る機会が増えていきました。丸坊主で親しみやすいキャラクターの澤部さんは順調に仕事を増やし、CMにも出演するようになりました。一方の岩井さんは持ち味を出し切れず、テレビにあまり出なくなってしまいました。

 しかし、最近になって、お笑いファンの間でそんな岩井さんに注目が集まっています。テレビ東京の深夜の人気番組「ゴッドタン」では、岩井さんが自身の不遇ぶりを嘆き、現状のテレビ界に不満をつのらせる姿が大反響を巻き起こしました。

 芸人たちはバラエティー番組に出るときに、共演する俳優や大御所タレントに気を使って大げさに笑ったり、彼らのたわいもない話にうまくツッコミを入れて面白く見せたりすることがあります。岩井さんに言わせると、それは「お笑い」ではなく「お笑い風(ふう)」に過ぎません。岩井さんは昔からお笑いが好きで、漫才のネタも自分でずっと考えてきました。ところが、いざテレビに出てみると、そういった本格的な「お笑い」よりも、口当たりのよい「お笑い風」が求められるという現実があったのです。そんなテレビ界の空気にうまく適応できたのは澤部さんのほうでした。あくまでも「お笑い」にこだわる岩井さんは、いまだにテレビになじめないと主張しています。

 ここ最近は、たとえ芸人であっても、テレビに出る人の発言はどんどん無難になっています。視聴者からの批判やネットでの炎上などに作り手も出演者も敏感になっているからです。

 そんな中で、多くのテレビ制作者や芸人を敵に回しかねない思い切った本音をぶちまける岩井さんには、危なっかしさと同時にスリリングな面白さを感じます。「ハライチのターン!」(TBSラジオ)というラジオ番組でも、しれっと過激なことを言う岩井さんのキャラクターが光っています。