知床に“生”を与える「冬の使者」

 北方から到来して、知床の海を白一色に染める流氷。知床は、「冬の使者」とも呼ばれるこの流氷が、北緯44度という北半球でもっとも南の海域に到達する場所である。

シベリアからの季節風と樺太の東を流れる南向きの海流が、流氷を知床まで運んでくる。[写真:知床斜里町観光協会]
シベリアからの季節風と樺太の東を流れる南向きの海流が、流氷を知床まで運んでくる。[写真:知床斜里町観光協会]

 千島列島やカムチャッカ半島、ユーラシア半島、サハリン、北海道に囲まれたオホーツク海は、閉鎖的で海水の出入り口が少ない。千島列島の隙間からわずかに出入りできる程度である。

 いってみれば、オホーツク海は超巨大なプールのようなもの。そこに、シベリアを流れる大河、アムール川から流れ出た淡水が大量に流入するのだ。これにより、オホーツク海表層の塩分濃度が薄められる。

 こうして、オホーツク海は塩分が薄い表層と、塩分が濃いままの深層の二重構造となり、シベリアからの冷たい季節風が表層の海水の真水成分を凍らせ、流氷がつくられる。

ゴマフアザラシは流氷とともに訪れ、知床で越冬し、出産する。真っ白な子どもが誕生するのは3月。[写真:知床斜里町観光協会]
ゴマフアザラシは流氷とともに訪れ、知床で越冬し、出産する。真っ白な子どもが誕生するのは3月。[写真:知床斜里町観光協会]

 ましてや海水の出入り口のないオホーツク海は、水温の高い日本海や太平洋の影響を受けにくい。そのためいったん水温が下がると、凍結に拍車がかかり、きわめて短期間で流氷が誕生するのである。