「唯一無二」と目される姿勢とは

 こうした、菅田さんの役のイメージを固定しない仕事ぶりは、彼をアイドル的に見るファン、今どきの若者の代表として見るファン、演技を期待する映画ファンなど、さまざまな層のファンを獲得することに成功しています。こうした菅田さんの姿勢は、後輩の俳優たちにとって、「どんな役でもきちんと演じることができれば、どちらか一方に決めて進まなくてもよい」という指針にもなるのではないかと思います。

 しかし、ダークなトーンの作品に出続けながら、ある種のキラキラとしたアイドル性も自然に保つということは、普通はかなり難しいこと。菅田将暉という俳優に憧れても、同じようなバランスで仕事をする後輩俳優はなかなか出てこないかもしれません。そういう唯一無二なところが、制作者側からすると、誰もがキャスティングしたくなるゆえんなのではないでしょうか。

 ちなみに、2012年以降、何度か取材の機会に恵まれました。菅⽥さんのインタビューは、監督や演出家などと同じくらいの密度があり、合同で取材した記者さんたちも、一様に感心していました。また、こちらの何気ない質問にも、意をくんでその先のことまで答えてくれるところがあり、こういう感覚は、きっと現場でも発揮されているのではないかと感じました。

 それは、俳優に深みや密度を求める制作者からの要求だけでなく、その正反対のふわっとした空気感を求められたときにも応じられるのではないかと思います。例えば、俳優独自の空気から笑いを生む脚本家・福田雄一さんの作品に多く出演しているのも、多様な要求にも対応できる感覚が功を奏しているのではないでしょうか。

 2016年は福田さんが脚本を担当したテレビドラマ「勇者ヨシヒコと導かれし七人」にゲスト出演したほか、ドキュメンタリー番組「情熱大陸」に出演したときも、福田さんが演出を担当していました。また今年はテレビドラマ「スーパーサラリーマン左江内氏」にゲスト出演し、これから公開の福田さんが監督を務める映画「銀魂」にも志村新八役で出演します。よほどの信頼が寄せられているのでしょうね。

 今年は他にも映画「火花」なども楽しみなところではありますが、個人的には韓国で2009年に「息もできない」を監督、脚本、主演をしたヤン・イクチュンとのW主演映画「あゝ、荒野」にも期待しています。こうしたラインアップを見るだけで、2017年も菅田将暉は、自身のアイドル性を否定せず、同時に映画ファンをうならせる仕事を絶妙のバランスで続けていくのだなと実感します。

文/西森路代 イラスト/川崎タカオ