前回記事・【対談】私たちは「逃げ恥」の何に「萌えた」のか? に続き、「逃げるは恥だが役に立つ」原作の漫画家・海野つなみさんと、ドラマの脚本を担当した野木亜紀子さんの対談後編をお届けします。逃げ恥の裏テーマは「多様性」なのだとか!

マイノリティーなキャラクターが集まり、共感広がる

――野木さんはドラマの顔合わせのときに、「多様性を大切にしたい」と言われたそうですね。

野木さん(以下、敬称略) 実は私、海野先生がその日いらっしゃることを直前まで知らなかったんです。原作者の思惑をよそに、そんなことを勝手に言ってもいいものかとも思ったんです。でも、この物語の登場人物って、平匡にしてもみくりにしても、他の人も、ある種のマイノリティーだなと思うところがあって、以前からプロデューサーにはそう伝えていて。ほかのことを話す準備もしていなかったので、これは所信表明だと思って、キャストとスタッフの皆さんに「このドラマで私は、多様性を描きたい」と言ったんです。だから、単行本のあとがきで海野先生に拾ってもらって、びっくりしました。

海野さん(以下、敬称略) それを聞いて安心したんです。今まで、野木さんが脚本を書いたドラマを見てうまい人だというのは分かっていたんです。その上で、「多様性を大切にしたい」という言葉を聞いて、漫画のことも分かってくれていると思えたから、その後はすべてお任せできました。台本で「え?」って思う部分が出てきても、野木さんは、分かった上で書いていると思えるなと。例えば漫画では「家事をやるのは好意だから」と描いているところが、ドラマでは「家事をやるのはボランティアだから」と変わっています。最初台本で見たときは、「これはどういう違いだろう、でもきっと野木さんなりの考えがあるんだな」と思ってドラマを見たら、「ああ、こういう使い方をしたいからこの言葉を選んだのか!」と。

――多様性については、もともと海野さんも考えていたことですか?

海野 いろんな人がいるよねというナチュラルな疑問として描きました。それは、今回に限らず、今までも描いてきましたし。

――読者・視聴者としては、小ざかしいみくりと、アラフィフで未婚の百合ちゃんのキャラに本当に勇気づけられました。漫画ではこうしたステレオタイプではないキャラクターを見かけることはありますが、まだまだドラマでは見ることの少ないキャラですよね。

海野 出てきたとしても、ただ小うるさいだけのキャラになっていたりしますよね。長年働いている女性を描くと、それだけでお局キャラにくくられることも多いから。そうなると、見ている女の人も、年取って口うるさいと嫌われるんだなと思ってしまったり、ステレオタイプな誘導になってしまったりということは多かったかもしれないですね。

――そういったキャラクターの誘導がこの作品にはなかったですよね。

海野 「そうじゃないんだ」と強く訴えるよりは、普通の人を普通に描いているだけなんですよ。「小うるさい」とか「お局」と言われることもなく楽しく暮らしている、周りにいる普通の人のことを普通にきちんと描ければそれでいいんじゃないかなと。それに、漫画には百合ちゃんの仕事のシーンはそこまでないんだけど、ドラマでは部下とかも出てきて、働く百合ちゃんを描いてくれて、そこは厚みが出て、すごくよかったなと思います。

野木 あそこは逆算して加えたものなんです。原作の百合ちゃんって良いせりふがいっぱいあるじゃないですか。女性向けの雑誌や漫画を読んでいる人には、そういうせりふの良さはすぐに伝わるけど、ドラマだといろんな人が見て分かるようにしないといけない。どうしたらあのせりふが引き立つかを逆算して考えて、例えば百合ちゃんの作った、自由をうたう広告が、女性の価値観を決めつける広告に差し替えられてしまって……みたいなエピソードを追加していました。