優しく線の細い早坂さんも好演

 また、「東京タラレバ娘」では、銭形の豪快なキャラクターとは真逆の真面目で優しく線の細いプロデューサーの「早坂さん」を演じています。こちらも、人気漫画作品の映像化。こうした原作ものでは既にイメージがつくられているので、最初に、早坂さんを鈴木さんが演じると聞いたときは、意外に思いました。

 しかし、始まってみると、もはやそんなことは意識しないほどに、早坂さんになじんでいました。銭形をやっていた人が、丸首のニットにシャツ、メガネという姿がなじむことは通常ではほとんどないことかと思いますが、それを難なくやってしまうのは、すごいことです。

 原作では早坂さんは制作会社のディレクターでしたが、ドラマではプロデューサーになり、頼りなげなところが少ない設定になっていることも役になじんでいたことに関係があるのかもしれません。原作では坂口健太郎さんが演じているKEYが仕事を見つけてくる場面を、ドラマでは鈴木さんが演じる早坂が担うといった改変があり、こんなふうに誠実な人がいればいいのにと思わせる役になっていました。

 この2作品だけでも正反対のキャラクターなのに、「精霊の守り人II」では、これまた全く違った役で、驚きました。長髪で無口な密偵の役で、上半身裸で拷問を受けているシーンまであります。

 ある程度、俳優という職業は、その人に似合いそうな型というものがあるものです。なぜなら、今や俳優は映画やドラマのPRでバラエティー番組にも出演するため、その人の持つ素のキャラクターとうまくリンクした役のオファーも多くなるし、見る人も、その人の背景込みで作品を見てイメージを膨らませることもあるからです。

 また、俳優には当たり役というものがあると、それを期待されるようにもなります。人によっては、そこから抜け出したいこともあるでしょうし、また当たり役、自分に合った役を大事にして演じていく人もいるでしょう。

 ところが鈴木さんは、当たり役がそのときによって違います。過去にも、映画「HK 変態仮面」のイメージが強かった時期もあれば、NHKドラマ「花子とアン」の村岡英治が当たり役に見えたときもあり、また、映画「俺物語!!」のイメージも印象に残っています。その3作品だけでも幅が広いものです。

 今では、裸になって肉体派を演じるとき、時代を問わず誠実で穏やかな人物を演じるとき、漫画から抜け出た豪快なキャラクターを演じるとき―の3方向がベースになっていて、こうした役柄の作品があるときに、キャスティングをする人々はぱっと鈴木さんの顔が思い浮かぶのではないかと思います。