デビュー作で絶世の美人を演じるも

 菜々緒さんの女優デビューは2012年のことでした。『東京タラレバ娘』が有名な東村アキコさんの『主に泣いています』がデビュー作です。この頃は、まだ女優としての経験の浅さもあり、しかも絶世の美人という難しいキャラクターでもあり、そして漫画原作のイメージを裏切れないということもあり、キャスティングされたときの世の中の意見は賛否両論だったと思います。当時のことを考えると、私自身も、ここまで菜々緒さんが女性に人気が出ることになるとは思っていませんでした。

 その後、2014年のドラマ『ファースト・クラス』で悪役のイメージを確立したと思われますが、この頃も、まだかっこいい悪役というよりは、「いじわるな人」というイメージのほうが強かったようにも思います。ただ、その後も『サイレーン 刑事×彼女×完全悪女』など、続けて悪役に本気でぶつかっている姿が徐々に受け入れられて、今のような地位を確立したのでしょう。

 私はこの『ファースト・クラス』のあたりまでは、悪役というには、声が心許ないなと感じていました。ちょっとかすれていて、今よりお腹の底から出ている感じがしなかったのです。それがいつの間にか、お腹からはっきりと声が出るようになり、好感度の高い『au』のCMなどを見ていても、かなり大きな声を出している姿を見て驚きました。声がきちんと出るということでも、演技に説得力を増したのではないかと思っています。

 また、2016年の映画『オオカミ少女と黒王子』では、山﨑賢人さん演じる黒王子こと佐田恭也の姉を演じていました。漫画原作と映画では、ちょっとキャラクターが違うのですが、映画の中の姉は、気が強いけれど凛として正義感のある女性になっていました。このキャラクターは、『花より男子』のドラマ版で松嶋菜々子さんが演じた道明寺椿にも通じるような役。こうした、悪役ではないけれど、かっこよくて頼りがいのある役をやっても説得力のある女優になったのだなとこの時に気付かされました。

 ところが、菜々緒さんは、自分でもなぜ悪役をやればやるほど人気が出るのか分からないと発言しています。