こんにちは。「ワークルールとお金の話」の社会保険労務士 佐佐木由美子です。転職を決意して会社に退職を申し出たところ、引き留められて身動きが取れなくなってしまった…という千晴さん。今回は、退職の流儀について、考えてみましょう。

退職は認めない、の一点張り

 以前、直属の上司だったN氏に誘われ、N氏が立ち上げた会社で働くことになった千晴さん。あるときは秘書として、あるときは営業補佐として、様々なシーンで誠実にサポートをしてきました。一般の女性事務職と比べると、かなり優遇された給与をもらい、仕事をした分だけ評価される環境にも満足していました。

(C)PIXTA
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 ある程度ビジネスが軌道に乗ってくるにつれ、社員数も徐々に増加。千晴さんの残業時間はもともと多かったものの、人数が増えてさらに忙しくなっていきました。N氏が起業して3年が経った頃、千晴さんの疲れはピークに達し、もう少し落ち着いた職場で、これからのキャリアを考えたいと思うようになりました。

 時を同じくして、社内で何かともめごとが増えるようになりました。「社長がワンマンでやりきれない」「あれはパワハラじゃないか?」といった具合に、経営陣に対する不満が爆発して、古株の社員が次々と辞めていってしまったのです。

 そうしたときに、知人から「今、人材を探している良い会社がある」と聞き、何気なく話を聞いてみると、まさに自分がやりたいと思っていた業務内容でした。そこで、紹介を受けて面接を受けたところ、トントン拍子に採用が決定。新しい仕事に胸がときめく一方、重くのしかかってくるのは、今の会社を退職しなければならないということです。千晴さんはN氏に何といわれるか、不安でいっぱいでした。

 勇気を出して「退職願」を提出。来月いっぱいで退職をしたいと申し出たところ、激高したN氏は、退職願をビリビリに破り棄て、「退職なんて、絶対に認めない」と言い放ちました。あまりの迫力に、おびえる千晴さん。しかし、採用が決まっている以上、何とかして退職を認めてもらいたいと、それからも千晴さんはN氏に何度も辞める決意は変わらないことを伝えました。するとN氏は、今の体制を立て直して新しい人が来るまで、あと半年はこの会社にいてほしい、と千晴さんの退職を慰留するのでした。