2015年7月に「乳癌診療ガイドライン」が改訂され、乳がんのマンモグラフィ検診の推奨グレードが見直された。一方、巷では「検診を受けていても乳がんは見つからないことがあるの?」「新しい3Dマンモグラフィは効果が高いの?」といった、乳がん検診をめぐる疑問も多い。そんな乳がん検診の現状と課題について、ガイドライン委員も務める画像診断医・戸崎光宏さんに聞いた。

マンモグラフィの推奨グレード「A」から「B」に

イラスト/KYオフィス(PIXTA)
イラスト/KYオフィス(PIXTA)

 日本乳癌学会は2年に一度、「乳癌診療ガイドライン」の改訂を行っている。2015年7月の改訂で、50歳以上に対するマンモグラフィ検診の推奨グレードが「A(十分な科学的根拠があり、積極的に実践するよう推奨する)」から「B(科学的根拠があり、実践するよう推奨する)」になった。40歳代の若年層に対しては、もともと「B」で変わらない。

 「この改訂の背景には“過剰診断”と“デンスブレスト”という、2つの課題があります」と戸崎さんは言う。

 「過剰診断」とは、本来なら見つけなくてもよい、治療の必要のないがんを見つけてしまうこと。がんの疑いといわれて不安になったり、検査に伴う負担が生じたり、無駄な治療につながる恐れもある。マンモグラフィ検診によって早期がんは減っても、進行がんは減っておらず、過剰診断が約3割を占めるという報告もある。治療しなくてもよいがんをどのように安全に絞り込むかを、現在、世界中で研究中だ。

がんを見つけにくい「デンスブレスト」とは

 一方、「デンスブレスト(高濃度乳腺)」とは、乳腺が濃く、エックス線画像上、白く写るタイプをいう。乳腺には個人差があり、その濃度によって次の4つのタイプに分類される。(3)と(4)を併せてデンスブレストと呼ぶ。

(1) 脂肪性
(2) 乳腺散在
(3) 不均一高濃度
(4) 高濃度

乳腺密度の違う乳房のエックス線画像。左から順に、「脂肪性」「乳腺散在」「不均一高濃度」「高濃度」の画像。乳腺密度が濃いと、白く写る範囲が広くなる。 (画像提供/GEヘルスケア・ジャパン)
乳腺密度の違う乳房のエックス線画像。左から順に、「脂肪性」「乳腺散在」「不均一高濃度」「高濃度」の画像。乳腺密度が濃いと、白く写る範囲が広くなる。 (画像提供/GEヘルスケア・ジャパン)

 デンスブレストの場合、マンモグラフィで画像を撮影しても全体が白く写るため、がんを見つけにくい。“雪山で白ウサギを見つけるようなもの”とも例えられる。一方、脂肪が多い場合は画像で黒く写る部分が多いので、その中にがんが白く写れば比較的見つけやすい。実はアジア人で50歳未満の女性の8割はデンスブレストで、日本人の50歳以上の女性でも8割はデンスブレストだというデータもある。

 「アメリカでは、個人の乳腺濃度を告げ、次の段階の超音波検診までカバーする対策を法整備する州も増えてきていますが、日本ではほとんど知られていないのが現状です」(戸崎さん)

 日本では、NPO法人乳がん画像診断ネットワークが、デンスブレストについての情報提供を行っている。デンスブレストについてさらに詳しく知りたい人は、ホームページを参照してほしい(http://bcin.jp/)。