「初心者の目」を大切に

 さらに、人に伝えたり講演したりする立場となった今、最も役立っていると感じるのは、過去の記録を見ることで「初心者の目」をもう一度思い出すことができるということです。最初は自分の備忘録のために書いたものなので、今見直すと、「昔はこんなこともできなかったのか」「よくもまあこんな状態で発信したな」などと恥ずかしく思うこともあるのですが、記録していたことによって、今だからこそ見える「分からない人がつまずく過程」も分かるようになっていったのです。

 一度知識を得てしまうと、分かっていることが当たり前になるので、初心者がどこでどうつまずくかに関するアンテナが鈍ってきます。しかし、自分自身が初心者だったころの記録を読み直せば、今思うと「そんな簡単なことを」というところに苦労していたりするので、苦労している人、やろうと思ってもできない人の気持ちがよく分かるようになったのです。それがのちに、講演をするとき、聴衆の気持ちに寄り添うのに大変役立つようになりました。また、過去の記録を振り返ることで、「毎日なんとなく生きているようでも、意外と私、成長してるのかも」と、今の自分をポジティブにとらえることができるようになりました。

 これに味をしめて、何か新しい挑戦をするときは、その挑戦をテーマにしたブログに書く、と決めていろいろ書いていた時期があります。その一つがフルマラソンへの挑戦でした。今では年に1度、市民ランナーとしてはまあまあのペースでフルマラソンを完走できるくらいの体力はつきましたが、当時の私にとってフルマラソンは未知の世界。全く走れないところから記録しよう、と走行距離、走行時間、感想を淡々と書いていきました。

 すると、思わぬ効果がありました。このマラソンブログを数年後に夫が読み、「こんなにヘッポコだった人(つまり私)がフルマラソン完走できたんだから、自分にもできると思った」と言って、トレーニングを始め、実際にフルマラソンを完走するようになったのです。お陰で今では夫婦でホノルルマラソンに出場することが恒例となりました。「自分のダメなところが、人を勇気づけることはあるのだな」と実感したエピソードです。