カーテンをしただけで変わった
米国のオーケストラの入団試験では、審査員は最も優秀な演奏者を採用したいと思い審査に及ぶ。しかし、審査の結果をみると、女性演奏者はわずか5~10%にとどまることが多かった。
本当に、男性の演奏者の方が実力が上なのか。審査で演奏者の外見にとらわれず演奏の審査に集中できるよう、カーテンを導入した結果、女性の演奏者の審査の通過率がなんと50%増加した。
この事例を考えると、審査員はバイアス(偏見)によって男性をひいきしていたことは明らかだ。だが、審査員は女性に対して差別をしようとしていたわけではない。むしろ、男女問わず最も優秀な演奏者を採用したいと思って臨んでいただけに、この問題は根深く、原因究明が難しい。
ただ、カーテン導入という、ちょっとした「行動」の介入により、このようなバイアスを修正できた。カーテン導入という組織のデザイン改革が行われた結果、1970年代はわずか5-10%だった女性演奏者の比率は40%までに増えた。
このほかにも、企業の面接では、同じ質問を全員におこなう「構造的インタビュー」を実施することで採用時のバイアスが取り除けることや、人事評価では評価者が評価対象者の自己評価を読まないようにすることでより正確な評価をできることが実際に証明されている。
行動経済学を利用した介入はダイバーシティ推進や女性登用にも応用できると、ボネット教授は強調する。秋学期の後半は、企業で実際にどのような介入をすべきなのか学ぶ予定だ。
文/大倉瑶子 写真/PIXTA、Women and Public Policy Program