実力があれば、海外ではフレキシブルに生きていける

 日本では転職者は増えてきているが、いまだに終身雇用が一般的で、みんな同じようにキャリアを積み重ねているため、生き方の多様性や柔軟性を見出しにくいのかもしれない。

 向山さんも「日本は労働市場の流動性が相対的に低いし、会社の人事制度も硬直的な部分が多く、休職や退職に対するハードルは高い」と話す。

 「それ以前に、女性は『仕事をバリバリしていると結婚できないかもしれない』と意識してしまったり、男性もまだ自由な考え方をする女性の受け入れ態勢ができていなかったりするのかもしれない。一方アメリカでは、ジェンダーレスな考え方で、個人の専門性や実績に対してシビアな面もあるが、実力があれば、会社はフレキシブルに対応してくれる」という。

 向山さんはボストンでの1年間で、ハーバードの国際経済や金融政策の授業を受けるほか、エズラ・ヴォ―ゲル名誉教授の助手として日中関係の研究に従事し、友人が起業した電力ベンチャーの事業にも取り組んだ。さらにこの夏は、新たに得た人脈を活用し、衆議院議員の事務所でインターンをするなど、渡米した経験があったからこそのチャレンジを続けている。

 向山さんは、これまでのキャリアの実績があったからこそ、一旦退職をしてもアメリカで様々な機会を利用することができた。これらの経験や世界中の人々との出会いを通して、『1年仕事を離れたら、出世コースから外れるかもしれない』という日本企業ならではの先入観や常識にとらわれない価値観も見出せた。そして、再雇用制度を利用して、9月に元の会社に再就職することを決めた。同じ職場に戻るものの、キャリアや家族設計はそれぞれの夫婦の価値観で相談しながら積み上げていけばいいと、仕事に対する考え方も大きく変わったという。

 「当初、“会社を辞めることは立ち止まることなのでは”と思っていたが、ボストンでの生活では、1年間仕事をしている以上のものを吸収できたと思う。ハーバードやボストンで培った知見・経験・ネットワークは日本に戻っても活用できるものばかり。夫婦2人でいる時間もつくれたし、今後のキャリアの展望も少し引いた環境で見つめる機会にもなった」

夫のハーバード留学に同行した向山さん。ボストンでの生活で「人生はもっと自由に選んでいい」と思えるようになった
夫のハーバード留学に同行した向山さん。ボストンでの生活で「人生はもっと自由に選んでいい」と思えるようになった

海外で見る大胆な人生設計から学ぶことがある

 私自身、世界中から学びにきているハーバードの友人たちと話していると、その自由な生き方にワクワクする一方で、その大胆さに圧倒されてしまう部分もある。

 向山さんのように、日本の企業で働きながら、自分の道を見出していく女性の姿を見ることは、自分のこれからを考えるうえで、一番の励みになると感じた。

文/大倉瑶子

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