1年で自己効力感を高めた友人のエピソード

 私の友人で、上司に「これからは名刺を持って仕事をしてほしい」と言われた女性(Aさん)がいました。

 名刺を持つということは、会社の「顔」として、社外の人とも積極的に関わっていくということです。上司としては、仕事ができると評価しているからこその要請だったのですが、これまで名刺を持ったことのなかった彼女にとっては、とても勇気のいることでした。そのためAさんは、「私なんかが名刺を持っても意味がない……」と思い、この時は断ってしまったそうです。

 しかし1年後、彼女は「名刺を作りました」と、笑顔で私に報告してくれました。なぜAさんは、名刺を作る勇気を持てたのでしょうか。

 実はAさんは、その1年の間に、女性のリーダーを育成するプロジェクトに参加し、さまざまな企業から集まった女性たちと一緒に、研修を受けたり交流会に参加したりしていたのです。そして、プロジェクトを通してスキルを身に付けたり、メンバーと励まし合ったりすることで、「成功体験」と「社会的説得」を獲得。年齢の近い同性メンバーの活躍を見たり聞いたりしたことで、数多くの「代理体験」も得ていたのです。

 彼女のように、「成功体験」や「代理体験」「社会的説得」を経験することで、自己効力感は高くなります。もしも自己効力感の低い部下がいるなら、まずはほめたり励ましたりする「社会的説得」を試みることで、部下の成長をサポートするという方法もあります。

 ただ、エディ先生が解説してくれた通り、「社会的説得」は影響力が弱いとされています。そのため、できれば「成功体験」を積んでほしいところなのですが、部下が行動を起こすかどうかは、結局のところ本人次第。さらに、自己効力感は、自分がどう思うかという「主観的認知」なので、本人が自分の成長を実感してくれなければ、効果は期待できません。

 では、上司ができる「社会的説得」以外のサポートには、どんなものがあるのでしょうか。

努力して達成した「肯定的な面」をほめよう

 日常の中で、自分の「成功」や「成長」を自覚する場面は、意外と少ないものです。劇的に成長することはほとんどなく、少しずつ前に進んでいくため、私たちは自分自身の成長には気付きづらいように思います。

 だからこそ、本人も気付いていない「成功」や「成長」に気付かせてあげることも、上司の大切な役割です。

 半年前や1年前よりも成長していることは、たくさんあるはず。そうした本人に「自覚のない」成長を見つけて、ぜひ部下に伝えてあげてください。

 「もともと資料作りが早くて正確だったけど、今はもっと早くなって、内容もより濃いものになってるね」
 「以前は○○で悩んでいたけど、試行錯誤して頑張ったからこそ、今は○○が完璧にできてるね」

 このように、本人が普段は意識していないであろうことを伝えると、部下も自分の「成長」を実感し、「小さな成功体験」を自覚しやすくなります。

 ただし、「昔は××なところがダメだったけど、今はよくなったね」というような伝え方は危険です。昔を下げて今を上げられると、言われたほうも素直に喜べなくなります。至らなかった点やダメだった過去を強調するのではなく、本人が努力をして達成した「肯定的な面」に焦点を当てた伝え方を心掛けましょう。