改善点の指摘は「もったいない」を使うと効果的

 では今度は、後輩や部下を育成する場合のことを考えてみましょう。

 まず大切にしてほしいのは、やはり「感謝」と「ねぎらいの言葉」です。上司は部下に対して、改善点の指摘やアドバイスはしますが、「お疲れさま」や「報告ありがとう」という言葉が抜けてしまいがちです。そのため、まずは「お疲れさま」や「報告ありがとう」と言ってから、改善点やアドバイスを伝えるように心掛けましょう。

 また、改善点や修正点を伝えるときには、「全体の方向性はOKだけど一部修正すべき点がある」のか、それとも「全体の方向性自体が根本的にズレている」のかということを、しっかりと伝えることが重要です。

 例えば、部下のプレゼン資料をチェックしたときに、全体の方向性がOKならば、下記のような伝え方をするのがいいでしょう。

◆全体の方向性がOKの場合

「お疲れさま。短期間で内容の濃い資料になっていて感心したよ。全体としてはとてもいいんだけど、この部分だけは過去のデータを追加したほうが、より説得力の増す内容になると思うよ」

 このように、方向性が間違っていないことを伝えてあげて、さらに具体的なアドバイスをすると、部下も安心して修正に取り組めます。

 一方、残念ながら全体の方向性がズレている場合には、「もったいない」というワードを使って、下記のように伝えてみるのがオススメです。

◆全体の方向性がズレている場合

「お疲れさま。短期間で丁寧に仕上げてくれてありがとう。ただ、今回のプレゼンでは××の部分を全面的に打ち出したほうが効果的だと思うよ。今のままだと、○○さんの企画の魅力が伝わりづらくて、もったいない。だから大変だけど、もう一度全体を見直してみてくれるかな?」

 このように、「もったいない」というワードを使えば、仕事のプロセスは認めた上で、改善を促すことができます。また、部下への期待感や信頼感を表すこともできるので、相手のモチベーションを必要以上に下げることもないでしょう。

 その他にも、「資料のまとめ方はいいのに、誤字脱字などのケアレスミスがあるのはもったいない」「契約のためにいろいろと調整してきたのに、最後の最後で引くのはもったいない」など、「もったいない」は汎用性の高いワードなので、ぜひ使いこなして、部下や後輩の育成に役立ててください。

語尾の「ね」は避け、会話のバトンを手渡して

 また、部下に自分の意見や考えを伝えるときには、語尾に「ね」を付けて強調するのは避けたほうがいいでしょう。「この場合は××のほうがいいよね」「これって××だよね」というように、語尾に「ね」を付けて強調すると、何となく意見や考え方を押し付けられているような気がしませんか。

 特に部下との会話では、上司の意見は強くなりがちです。ですから、極力語尾に「ね」を付けるのは避け、「私は××だと思っているんだけど、○○さんはどう思う?」と、問いかけるようにしてみてください。相手に会話のバトンを渡すことで、後輩や部下も意見を言いやすくなります。

 そして部下の意見や行為を、自分の常識や経験だけで「ジャッジ」し、一方的に否定するような発言にも気を付けましょう。否定された側からすれば、選んできた道や自分自身を否定された気持ちになり、素直に上司の言うことを受け入れられなくなってしまいます。

 一方的にジャッジされるのではなく、話を聞いてもらえて初めて、相手の中に別の選択肢を受け入れる余裕が生まれます。説得や意見の押し付けでは、人は動きません。まずは相手の立場を理解し、その人自身の課題や、大切にしていることにうまくアクセスしてこそ、部下を成長させることができるのです。

 読者の皆さんの中には、部下や後輩を指導する立場の方も多いと思います。人材育成は、長期目線で人をよりよく成長させていく試みです。まずは小さなステップを踏みながら、ゆっくりと関係性を築いていきましょう。

*今週の宿題*

普段の会話の中で、さりげなく上司に「ほめリクエスト」をしてみましょう。また、後輩や部下を指導する立場の人は、「もったいない」というワードを使ってアドバイスをしてみましょう。

相手の立場を理解してこそ、「マネジメント」ができるようになるのです (C)PIXTA
相手の立場を理解してこそ、「マネジメント」ができるようになるのです (C)PIXTA

聞き手・文/青野梢 イラスト/北村みなみ 写真/PIXTA