上司との関係性に悩んだら、相手の「期待値」を考えてみて

 それでは少し視点を変えて、なぜ特定の相手を「苦手」だと感じるのかを考えてみましょう。

 上司との関係に悩んだことのあるAさんに、なぜ苦手だったのか理由を聞いてみると、「大変なことを当然のように要求してくるところが苦手でした。こちらの予定や業務量を無視して仕事を振ってくるくせに、残業はするなとむちゃを言うんです。どれも手は抜けないし、時間がかかる仕事だから大変でした」と話してくれました。

 この場合は、上司がAさんに対して持っている期待値と、Aさんが考えている、上司の自分への期待値との間に、ズレが生じている可能性があります。

 もしかするとAさんの上司は、効率的に仕事をする方法を学んでほしくて、業務量が増えることは承知で仕事を振っていたのかもしれません。Aさんなら、残業をせずに仕事をこなせる能力があると期待していたのです。一方、Aさんは真面目で目の前のことに一生懸命であるが故に、スピードよりも完璧さを追求しようとしていたのかもしれません。

 このように、上司と部下では、立場や目線が違うので、知らず知らずのうちにズレが生じ、うまく関係性を築けなくなることがあります。

 「うまくコミュニケーションが取れないな」と思っている人は、上司が自分に対して持っている「期待値」を、改めて考えてみましょう。上司は部下を成長させ、その結果を仕事に反映させることが役目でもあるので、一度上司の視点に立って考えることで、自分もさらに広い視野を持つことができるようになります。

その「常識」は本当に正しい? 正しさの基準は人それぞれ

 その他にも、自分が「当たり前」だと思っていることを逸脱してくる人、つまり「非常識」な行動を取る人に、苦手意識を持つ人も多いようです。

 しかし自分の「常識」は、本当にいつも「正しい」のでしょうか?

 例えば、約束通りの時間に待ち合わせ場所に行くことは、社会人としては常識ですよね。けれど、天候悪化による電車遅延や、予期せぬトラブルなどの影響で遅刻してしまった場合、時間を守れなかった人は非常識とはいえないと思います。また、昔は女性がミニスカートをはくことを非難する意見もありましたが、今ではそういう主張は少数派でしょう。

 自分の常識とは合わない人を苦手だと感じるのは、少なからず、「自分の感覚が正しい」ということを前提としています。しかし、遅刻やミニスカートの話のように、正しさや常識は、状況や時代に応じて変化するもの。また、一人ひとり「常識」の基準は異なり、すべての事柄において同じ感覚を持つ人はいないはずです。

 ひょっとしたら、あなたの苦手な人は他業種からの転職経験がある人で、仕事のやり方や考え方は、以前の職場で培ったものなのかもしれません。そうであれば、お互いの「当たり前」にズレがあるのは仕方のないこと。関係性を築くためには、苦手だからといって距離を置くのではなく、興味や好奇心を持って、相手を知ろう・学ぼうとする姿勢が大切なのです。

 コミュニケーションは、他者との関係づくり。「違いがあるのは当然」という意識を持ち、その上で、相手のネガティブな面ではなくポジティブな面を見るようにしましょう。相手の「いいところ」を見つけてほめるということは、自己完結せず、相手を自分とは違う人間として尊重することでもあります。

 またボスマネジメントは、上司を自分の都合のいいようにコントロールすることではありません。相手を知ることで、自分の思い込みも変えていき、お互いによりよい関係へと進んでいく手段なのです。

 この機会に、ぜひ自分の常識や思い込みを見直してみてください。「自分の感覚は本当に正しいのか」と振り返ることで、広い視野を持って成長していけますよ。

*今週の宿題*

苦手な上司の「いいところ」を探して、本人や第三者に伝えてみましょう。短所を長所に言い換えると、相手のポジティブな面が見つかりやすくなりますよ。
*第4回「クールな人に効くほめ言葉はコレ 響く言葉の見つけ方」の「ほめ言葉一覧」も参考にしてみて下さいね。

嫌いになる前に、手を打ってみましょう (C)PIXTA
嫌いになる前に、手を打ってみましょう (C)PIXTA

聞き手・文/青野梢 イラスト/北村みなみ 写真/PIXTA