ほめることは、お世辞や社交辞令ではありません。信頼関係を築くための、大切なコミュニケーションの一つです。今回は、積極的にほめるための考え方のコツと、3段階ある「ほめ」のステップを、ビジネスコーチの谷益美さんに教えてもらいます。さっそく使いこなして、相手と理想の関係を築きましょう。

「ほめ」を難しいと感じるワケ

「ほめ」は相手との信頼関係を築くためのステップ イラスト/北村みなみ
「ほめ」は相手との信頼関係を築くためのステップ イラスト/北村みなみ

 ほめることが苦手な人の中には、「ほめる=お世辞・社交辞令」だと思っている人も多いように思います。知人のAさんに言わせると、「何だかわざとらしいような気がして苦手。好かれよう・よく思われようとしているのが見透かされそうで怖い」とのこと。私も昔はほめ下手だったので、この気持ちはとてもよく分かります。そういった、多くの「ほめ下手」な人たちに話を聞いてみると、苦手と感じる2つの理由が見えてきました。

 1つ目は、「わざとらしい」と感じること。前述のAさんのパターンです。本当はそこまでスゴイと思っていなくて、本心から相手に伝えたいと思っていないとき、スキルとして相手を「ほめる」ことに抵抗を感じるというのです。コミュニケーションは自然体で取るべき、と考えている人も多いように思います。

 2つ目は、「ほめるポイントを見つけられない」ということ。例えば、皆さんの上司や後輩、周りの人たちのよいところをいくつくらいリストアップできるでしょうか? 研修や講座でも、すぐに10個以上リストアップできる人は珍しく、ほとんどの方が、改めて考えてみると浮かばないと苦笑します。

 そもそも、相手のよい面に目を向けようという気持ちがなければ、ほめるポイントは見つけられませんし、言葉も浮かびません。伝える言葉が浮かばなければ、相手に伝えたい、という気持ちが湧いてくるはずもないのです。つまり、相手のよいところを見つけようとするポジティブな態度を持てば、自然と相手をほめることができるようになります。

 「ほめること=お世辞・社交辞令」ではありません。ほめることは、相手の長所や強みに目を向けて、好意的な関係を築いていくための大切なコミュニケーションの一つ。職場の同僚や上司など、一緒に仕事をしている相手は、いわば運命共同体。「困ったときに助け合える関係になりたい」「気軽に仕事の相談ができるようになりたい」など、みんなそれぞれ「こうなりたい」と思う理想像を持っているからこそ、私たちは周りの人とよりよい関係を築こうと努力をするのだと思います。

 最初はお世辞や社交辞令のように思えて、難しいと感じるかもしれません。そんなときは、まずは相手のいいところを見つけるところから。なかなか見つけられないと思うなら、次にお伝えするほめスキルのファーストステップ、「挨拶」から取り組んでみるのもオススメです。

挨拶や名前を呼ぶことは、相手の存在を認めること

 皆さんには、今日から積極的に人をほめてほしいのですが、そもそも「ほめ」には3つの段階があります。まず1つ目は、相手がその場にいることを認める「存在承認」。具体的に言うと、「おはようございます」と挨拶をしたり、「○○さん」と名前を呼んだりすることが、「存在承認」に当たります。

 もしかすると、「挨拶や名前を呼ぶことがほめること?」と、疑問に思うかもしれません。でもそんなときは、連載2回目「みんなから好かれる人は、必ず『ほめ上手』 コツは?」の話を思い出してみてください。人をほめることは、「期待以上のものを評価すること」ではなく、日常の中にあるちょっとした「いいね!」を見つけて、それを相手に伝えることです。挨拶をしたり、名前を呼んだりすることは、「私はあなたがいることを知っています。認めています」と伝える行為。相手の存在そのものに対して「いいね!」と言う、最も基本的なコミュニケーションです。

 ただし「存在承認」は、親しい間柄であればあるほど、抜けやすいという危険性があります。慣れてくると、職場でも挨拶や感謝の言葉が少なくなるケースがありますが、これはつまり、相手の存在を無視しているということなのです。自分にはそのつもりがなくても、毎日の積み重ねにより、どんどん関係性は希薄になり、信頼関係も薄れていきます。ですから、相手の顔を見て名前を呼び、「おはようございます」や「ありがとうございます」と言うことを忘れないでください。

 大切なのは、相手の存在を「空気」にしないこと。きちんと存在を認めて、それを言葉として伝えることが、相手との信頼関係を築く第一歩です。