この連載では、毎週火曜日に健康・医療専門サイト「日経Gooday」編集部の取材から、元気になる最新のカラダの話をお届けします。

近頃、テレビのチャリティ番組などで見聞きする「多発性硬化症」という耳慣れない病名。いったいどんな病気なのでしょうか。多発性硬化症に詳しい、東京女子医科大学八千代医療センター 神経内科准教授の大橋高志先生にお話を聞きました。

脳や脊髄の神経が損傷される病気

――「多発性硬化症」とは、どんな病気なのでしょうか。

大橋:「多発性硬化症(Multiple Sclerosis:MS)」は、脳や脊髄、視神経などの中枢神経に炎症が起こり、多様な神経症状(視覚障害、感覚低下など)を繰り返しながら進行していく病気です。様々な研究が進んでいますが、現在のところ根治する方法はなく、国の指定難病の1つになっています。

 発症の原因もまだ解明されていませんが、免疫の働きが関係していると考えられています。何らかのウイルスが体内に侵入してきたとき、通常は外敵から体を守るために免疫の仕組みが働いて、血液中のリンパ球が、ウイルスに攻撃をしかけます。ところが、ウイルスではなく、自分自身の組織を攻撃してしまうことがあります。これを「自己免疫疾患」と呼び、多発性硬化症も自己免疫疾患とされています。

 多発性硬化症は、脳や脊髄の神経を覆っている髄鞘(ずいしょう:ミエリンとも呼ぶ)が免疫に攻撃されることで、炎症を起こして脱髄(だつずい)という状態になり、様々な神経症状が現れます。これは電線にたとえてみると、分かりやすいかもしれません(図1)。

図1 正常の神経と損傷された神経
図1 正常の神経と損傷された神経
神経細胞から伸びる軸索(じくさく)を覆う髄鞘(ずいしょう)が損傷されることで、電気信号(赤い矢印)がスムーズに伝わらなくなってしまう

 中枢神経は、神経細胞から伸びる電線のような軸索(じくさく)を通して、電気信号を伝達し、脳に感覚を伝えたり、脳から体を動かす指令を送ったりしています。電線はショートを防ぐために絶縁体で覆われていますが、中枢神経も同じように、絶縁体の役割を果たす髄鞘に覆われています。免疫が髄鞘を攻撃すると、炎症を起こして脱髄になります。いわば、絶縁体がはげ落ちて、電線がむき出しになった状態です。そのため、“漏電”が起こり、電気信号がスムーズに伝えられなくなり、いろいろな症状が現れるようになるのです。