本サイトでも人気だった連載「深澤真紀の女オンチ人生」を発展させ、女オンチに「男オンチ、社会オンチ」までをテーマにした書籍が、来月、刊行されることになりました。対談相手として加わったのは、若手の社会学者、古市憲寿さん。「女オンチ、男オンチ、恋愛オンチ、社会オンチ」について、語り合いました。

今回のテーマは「オンチをさらす理由」です。

深澤:いろいろ話をしてきましたが、いよいよ本が発売になります。

古市:よかったのか、よくないのか。それにしても、自分の“恥部”みたいな話をさらけ出して本にするって、どうしてですか? 連載(深澤真紀の女オンチ人生)にいろんな話がありますが、ヒドイですよね。

深澤:うーん、なんだろう? 古市くん、どうして私は、わざわざこんなこと書いてるんだと思う?(笑)

古市:「なんでこんなこと書いちゃうんだろ」って言われても(笑)。でも、なんか全部「こんなこと言わなくてもいいのになー」ってことまで書いてて……ホント、なんなんだろ。

深澤:それを古市くんに聞きたいわけです。だってあなたも、テレビとかツィッターとかで言わないでいいことばっかり言って、炎上しまくってるわけじゃない。

古市:自分ではあんまり自覚ないんですけどね。

深澤:読者の皆さんは「古市 炎上」で検索してください。あなたは30歳で若いからまだいいけど、私はもう48歳だし、守るべきものもいろいろあるわけです。それなのに、この本を出す意味が見いだせない(苦笑)

古市:でも深澤さん、自己顕示欲とかではまったくないでしょう?

深澤:自己顕示欲でこの本を出したら、ちょっと頭おかしい。

古市:確かに本当にそうなら、深澤さんと今すぐ距離をおきたくなる。

深澤:私はいつだって自分と距離を置きたいよ(笑)。自己顕示欲でもないし、かといって自虐なだけでもないと思うし、ホント自分の気持ちがよくわからない……。

 だからアマゾンで予約販売の告知が出た日くらいが、ブルーのピークくらいだろうね。「ああ、やっちまったな~私」って後悔するでしょう。あと知り合いには読まれたくない(苦笑)

古市:読まれたくないんだ(笑)

なぜ自分のオンチをさらすのか

古市:自分のオンチをさらすことで、世の女性を励ましたいって思ってるんですか?

深澤:うーん、「こんなオンチな私でもなんとか生きていけますよ」っていう感じなのかなあ。

 以前、作家の津村記久子さんと『ダメをみがく』(連載:“ダメ力”のみがき方、書籍:ダメをみがく)という対談集でお互いのダメっぷりを語り合ったら、読者から「ほんとにダメな人ですね~」とバカにされて、ちょっとうれしかったんです(笑)。だから本を出したら、ネットの反応でこの本の意味がわかるんじゃない?

古市:読者の反応で、本の価値がわかるってことですね。

深澤:そう、『ダメをみがく』のときも、「こういう反応なんだな」って読んでいく中で、本を出した意味がそれでわかったところがある。

古市:読者の反応に励まされましたか?

深澤:「ダメでよかった」と言ってくれる人もいたし、一方では「ダメすぎる」って怒っている人もいたし。でも本を出すときは、読者に怒られるのも大事なことだから。

古市:だって怒ってネットに書くって、すごい労力でしょそれ。

深澤:怒られるのはあなたの得意技でしょ(笑)

古市:たしかに。アマゾンの評価平均2.5点とかだから……。しかも、きちんと読んだ上での悪口も意外と多い。

深澤:わざわざ読んでくれても、低評価なのか……。

古市:深澤さんは自分がオンチだとわかっている。なのにこうやって本を出す。改めて冷静に考えてみると、どういうことなんでしょうね。

深澤:女オンチの私が開催する「ジャイアンのリサイタル」みたいなものだって思うんだけど、ジャイアン自身は自分がオンチだって知らないわけで。

古市:でも深澤さんは、自分がオンチだってわかってるんでしょ? わかってるのに、これを書くんだよね。ジャイアンよりもタチが悪いんじゃないですか。

深澤:「ダメでオンチなんだから、ちゃんとバカにされたほうがいい」と思ってるのかもしれない。

 前にも言ったけど、苦手なものを克服できないのがオンチなのかもしれない。でも克服するんじゃなくて、「できないことを認める」ことも悪くないと思う。

 私がこの本を出すのも、「世の中をよくしたい」というよりは、「しんどい人の人生が少しはマシになればいいな」ということだと思う。

古市:それができれば十分でしょ。

日経ウーマンオンラインで人気を博した連載「女オンチ人生」が1冊の本になります!
 「女オンチ」とは、著者本人が自分のために作った言葉。生まれながらにして「女らしさ」というものが分からず、美魔女信仰が甚だしい現代の世の 女性たちとはズレた感覚の自分を、楽しく綴っている。化粧もしないで結婚式に出る、占いが嫌い、更年期障害や老眼を悲観するどころか楽しむ…かといって、女を武器にすることを否定をするわけでもなく…。
 ここに挙げられていく「女オンチ」な出来事のうち、ひとつは誰にでも当てはまるところはあるはず。自分の ことを「女性としてだめだな」とちょっと悩んでいるあなたも、この本を読めば「こんな自分も悪くない」と、励まされること間違いなし!?
 新たに、社会学者の古市憲寿氏との「女オンチ×男オンチ」のスペシャル対談を掲載!「人間オンチ」な2人の軽妙なやり取りにも癒される!?『女オンチ。-女なのに女の掟がわからない』(670円+税/祥伝社黄金文庫/2016年2月11日(木)発売)
Profile
深澤真紀(ふかさわ・まき)
コラムニスト・淑徳大学客員教授。1967年、東京生まれ。早稲田大学第二文学部社会専修卒業。卒業後、いくつかの出版社で編集者をつとめ、1998年、企画会社タクト・プランニングを設立、代表取締役に。日経ビジネスオンラインで2006年に「草食男子」や「肉食女子」を命名、「草食男子」は2009年流行語大賞トップテンを受賞し、国内外で話題になる。『女はオキテでできている―平成女図鑑』(春秋社)、『輝かないがんばらない話を聞かないー働くオンナの処世術』、津村記久子との対談集『ダメをみがく――”女子”の呪いを解く方法』(紀伊國屋書店)、『日本の女は、100年たっても面白い。』(ベストセラーズ)など著書も多数。
古市憲寿(ふるいちのりとし)
1985年東京都生まれ。社会学者。若者の生態を的確に描出し、クールに擁護した著書『絶望の国の幸福な若者たち』(講談社)などで注目される。 日本学術振興会「育志賞」受賞。著書に日本社会の様々な「ズレ」について考察した『だから日本はズレている』(新潮新書)などがある。最新刊の 『保育園義務教育化』(小学館)では、女性が置かれた理不尽な状況を描き、その解決策を示す。