「誰かに一生懸命訴えかけているのに伝わらない。そんなときは、間(ま)がうまく取れていないのかもしれない」。ジャパネットたかたの創業者、高田明さんはそう話します。テレビ通販番組で商品を紹介するとき、2秒か3秒、わずかとも思える間があるかないかで売れ行きに大きな差がつくそう。室町時代に能の基本をつくった能役者であり、能作者の世阿弥の言葉を引きながら、プレゼンテーションの達人、高田さんが間の持つ力を語ります。
皆さん、はじめまして。高田明です。私は2015年1月まで通信販売会社、ジャパネットたかたの社長を務めていました。約30年にわたり、語り手(MC)としてテレビなどに出演していたので、私の顔に見覚えのある方もいらっしゃるかもしれませんね。
私は通販の世界に身を置き、いかにお客様に伝えるかということをずっと考えてきました。実際、テレビ通販では、どう伝えるかで商品の売れ行きが全く異なります。
通販番組では必ず価格を言います。簡単に思うかもしれませんが、商品を紹介する中で、どのタイミングで価格を出すか、言い換えればお客様はどの瞬間に価格を知りたいと思うか、その時を捉えることがとても重要なのです。
唐突に言ってしまったら、相手の心に届きません。その「ここぞ」というタイミングをうまくつかまえられるかどうかで、売れ行きが大きく変わることを私は何度も経験しました。
あらゆる要素を頭に入れる
それは世阿弥が「花鏡」の中で書いていた「一調・二機・三声」につながります。
能役者が舞台で声を発する際、心と体の中で音程を整え(一調)、タイミングを計り(二機)、目を閉じ、息をためてから声を出す(三声)とよい、という意味です。いきなり話しだしたら駄目。相手を引き付けるトーンとタイミングを踏まえ、その上で初めて声を出せという教えです。
能役者は舞うときに「舞台が野外なのか屋内なのか」「曇りなのか、晴れているのか」「風向きや温度、湿度」「どんな人が、何人くらい見に来ているのか」「その日の役柄」「自分のコンディション」「自分は誰と舞うのか」など、あらゆる要素を頭に入れて、一番いい高さ、張りの声を出すタイミングを計っているといいます。何気ないようでいて、これはという必然を探っているのでしょう。