「誰かに一生懸命訴えかけているのに伝わらない。そんなときは、間(ま)がうまく取れていないのかもしれない」。ジャパネットたかたの創業者、高田明さんはそう話します。テレビ通販番組で商品を紹介するとき、2秒か3秒、わずかとも思える間があるかないかで売れ行きに大きな差がつくそう。室町時代に能の基本をつくった能役者であり、能作者の世阿弥の言葉を引きながら、プレゼンテーションの達人、高田さんが間の持つ力を語ります。

高田 明(たかた・あきら)

ジャパネットたかた創業者、V・ファーレン長崎社長。1948年長崎県生まれ。大阪経済大学卒業後、機械製造会社勤務を経て、父親が経営するカメラ店で働く。1986年に独立し、カメラ販売の「たかた」(現ジャパネットたかた)を設立。ラジオ通販で手応えをつかみ、通信販売にシフト。2015年、社長を退任。2017年4月、サッカーJ2(当時)のクラブチーム、V・ファーレン長崎の社長に就任。同年11月の「奇跡のJ1昇格」に貢献した。著書に「高田明と読む世阿弥」などがある。(写真/菅 敏一)

 皆さん、はじめまして。高田明です。私は2015年1月まで通信販売会社、ジャパネットたかたの社長を務めていました。約30年にわたり、語り手(MC)としてテレビなどに出演していたので、私の顔に見覚えのある方もいらっしゃるかもしれませんね。

 私は通販の世界に身を置き、いかにお客様に伝えるかということをずっと考えてきました。実際、テレビ通販では、どう伝えるかで商品の売れ行きが全く異なります。

 通販番組では必ず価格を言います。簡単に思うかもしれませんが、商品を紹介する中で、どのタイミングで価格を出すか、言い換えればお客様はどの瞬間に価格を知りたいと思うか、その時を捉えることがとても重要なのです。

 唐突に言ってしまったら、相手の心に届きません。その「ここぞ」というタイミングをうまくつかまえられるかどうかで、売れ行きが大きく変わることを私は何度も経験しました。

あらゆる要素を頭に入れる

 それは世阿弥が「花鏡」の中で書いていた「一調・二機・三声」につながります。

 「調子をば機が持つなり。吹物の調子を音取りて、機に合はせすまして、目をふさぎて、息を内へ引きて、さて声を出せば、声先、調子の中より出づるなり。(中略)調子をば機にこめて声を出すがゆへに、一調・二機・三声とは定むるなり」(「花鏡」一調 二機 三声)

 能役者が舞台で声を発する際、心と体の中で音程を整え(一調)、タイミングを計り(二機)、目を閉じ、息をためてから声を出す(三声)とよい、という意味です。いきなり話しだしたら駄目。相手を引き付けるトーンとタイミングを踏まえ、その上で初めて声を出せという教えです。

 能役者は舞うときに「舞台が野外なのか屋内なのか」「曇りなのか、晴れているのか」「風向きや温度、湿度」「どんな人が、何人くらい見に来ているのか」「その日の役柄」「自分のコンディション」「自分は誰と舞うのか」など、あらゆる要素を頭に入れて、一番いい高さ、張りの声を出すタイミングを計っているといいます。何気ないようでいて、これはという必然を探っているのでしょう。