母の言葉が、私らしく歩むきっかけをくれた

アラビア語を学んだカイロ大学留学時のエピソードを披露する小池さん
アラビア語を学んだカイロ大学留学時のエピソードを披露する小池さん

 政界に入る前にはアラビア語の通訳や経済キャスターとして活躍するなど、多彩な経歴を持っている小池さん。人とは違うキャリアを描く原点となったのは、お母様の存在でした。小さい頃からお母様に洋服を作ってもらうことが多かったという小池さんですが、そのお手製の洋服には、「流行しているものを着ても、あなたが似合うとは限らないから」という考えがあったそうです。

 「そんな母でしたので、あなたは自分の好きなことをしなさい、と常々言ってくれていました。母は戦時中に厳しい女学生時代を過ごしたけれど、今は違うのだから、どんどんやりたいことをやらなければ嘘よ、と言ってすごく励ましてくれましたね」

 お母様に背中を押された小池さんは、自分が本当にやりたいことは何なのか、ということを考え始めます。そんな時にテレビで目にしたのが、アポロ11号の月面着陸の映像でした。高校性だった小池さんは、その時の同時通訳の方の鮮やかな仕事ぶりに、驚がくしたと言います。

 「海外に行ってみたいという気持ちが芽生え始めた頃で、それなら英語を極めるのはどうかな、と考えていました。そこで偶然見たのが、アポロ11号とNASAが交信する映像だったんです。ピーピーガーガーと雑音もうるさくて聞き取りにくい上に、科学用語や宇宙用語などの専門的な言葉を加えて澱みなく同時通訳するだなんて、私には到底無理だと思いました。これだけ英語を極めている人がいるのなら他の言語を選ぼうと考えて、やっている人が少ない、けれど必要性が増すであろうアラビア語を選ぶことにしたんです」

 アラビア語を学ぶため、高校卒業後はエジプトのカイロ大学に留学することになった小池さん。お母様もさぞ心配されたのでは? との質問には、笑顔で首を横に振りました。「どうぞ、いってらっしゃい! でしたね。卒業するまで帰ってこないようにとも言われました」と当時を振り返りながらも、エジプトでの生活を語ってくれました。

 「最初に留学代として1000ドル渡されましたが、下宿代を払っているうちになくなってしまい、現地で観光ガイドのアルバイトを始めました。日本からの観光客の方をピラミッドなどの名所にご案内するお仕事です。エジプトに一生に一度しか来られない方も多いでしょうから、ぜひ感動して帰っていただきたいなと思いまして、自分なりにピラミッドまでのルートを研究して、最もいいタイミングで『さあ、右手をご覧ください!』とアナウンスする練習をしていましたね」

 慣れない環境の中でも人を楽しませ、人生を楽しむ工夫を忘れない小池さんらしいエピソードですが、そんな前向きな気持ちを維持するために、自分へのご褒美をあげていたとか。大学の進級が決まったらエジプトのカイロにある高層建築に登って大声叫ぶ。何かをクリアしたら早朝にピラミッドに行ってご来光を全身に浴びる。そうした、「ちょっと変わった経験」がご褒美だったそうです。

 「そうした記憶は一生の励みです。経験をご褒美にしてきたことで、あの時あんなに頑張ったよね、と今でも思い出すことができるんです。モノは消えちゃうかもしれませんが、記憶は消えないですからね。私が20代半ばくらいの時にある方が、『人生の豊かさというのは忘れ得ぬ時をいくつ持っているかだ』と仰っていて、その言葉は今でも大切にしています」