落ちこんでいるときに元気がもらえたり、新しい視点が得られたり……ときには、人生が変わるほどの大きな力を持つ「本」。広告代理店のクリエイティブプロデューサーとして数多くの「人の心を動かす言葉」を生み出してきたひきたよしあきさんによるあなたを変える「魔法の本棚」連載では、読むたびに自分の個性や知性が磨かれ、人生が前向きに変わっていくことを実感できる“特別な1冊”を厳選して紹介していきます。

たいしたものではない自分を、たいしたもののように見せる

『何者』(朝井リョウ 新潮文庫)
『何者』(朝井リョウ 新潮文庫)

 「就活がつらいものだと言われる理由は、二つあるように思う。一つはもちろん試験に落ち続けること。単純に誰かから拒絶される体験を何度も繰り返すというのは、つらい。そしてもう一つは、そんなに大したものではない自分を、大したもののように話続けなくてはならないことだ」

 企業人でありながら大学の教壇に立ち続けて15年になる私。思えばその間、学生たちに対し、「大したもののように話す術」を教えて続けてきたようなものでした。

 「自分の短所を長所に見せろ」「生地の自分などいらない。自分を商品化せよ」
 「こいつと一緒に働きたいなという空気を醸し出せ」

 私に限らず「就活」を前にした学生たちに対して、大人はこういうセリフを言いがちです。これまで「自分らしく」生きようとしてきた学生ほど、就活の時にはオロオロする。「大したものではない自分を、大したもののようにみせる」ことを学びながら、「何かこれはおかしいぞ」と感じるものです。