これが「夢が叶った」ってことなの???
「お昼でも行きますか?」
珍しく昼間に顔を合わせた上司がそう言ってきた。
そういえば、会うのが久しぶりな気もする。
オフィスにいないでいったい何をやっているのだろう。
「来週の勉強会で、ヤグチさんが話をしてくれませんか?」
「えっ……」
以前、腕時計の恋愛ゲームについて上司が発表していた勉強会か。
「そもそもそれ、何のための勉強会なんですか?」
「いや、実は、僕が個人的に始めた社内勉強会で、まあ、ウケた事例とか報告するんですけど、毎回100人くらいくるんですよ」
「そんなに……」
「ヤグチさんのインタビュー、完全に新しいケースですから、ぜひお願いします」
「わかりました」
私は例のボロい定食屋で醤油ラーメンを食べながらうなずいた。上司はまた、とんかつ定食を食べている。なぜこの定食屋にはラーメンもあるのだろう。不思議だ。
「そういえば、夢は荒唐無稽なほうがいい、って言ってましたよね」
「そうですね」
「なぜなのか、なんとなくわかってきました」
「果てしなく続くような夢にしないと、夢がかなったあと困っちゃうでしょう」
そうなのだ。「声優に会いたい」という夢ならば、もうかなっている。
初めは、会うことだってかなわないと思っていた。でも、それはそんなに難しいことではなかったのだ。
「そう簡単にはかなわない、荒唐無稽な夢を持っていれば、その人は人生でいろいろあっても、ぶれない生き方ができると思うんですよね」
「ぶれない生き方?」
「自分が今どんな仕事をするべきか。どんな企画を立てるべきか。どんな服を着るべきか。どんなものを食べるべきか。夢がきちんと設定してあれば、夢の実現に近いものを選べばいいだけなので、すぐに判断できるんです」
「迷わなくなるんですか」
「例えば、タロットの企画とミュージカルの企画があったとして、『夢に近づけるかどうか』を基準に考えれば、どちらの仕事に時間を使えばいいか、即決できるでしょう」
そう言って上司はいつものとんかつにソースをつけて口に運んだ。
「じゃあ、今日も代わり映えしない定食屋に来てるのも、夢に近づけるからなんですね」
「もちろんですよ! ここは会社から一番近いから昼食の時間が短縮できるんです」
口いっぱいにキャベツの千切りをほおばりながら、上司はそう答えた。
以前なら上司の言うことは訳がわからなかったが、いつの間にか少しずつ理解できている自分に気づいた。