柚月さんの才能と、やりたいこと

柚月:私は本を作りたいと思ったんです。将来的には一人編集プロダクションを設立できたらいいと思っています。実は、担当編集として付いたイラストレーターさん二人が相次いで本を出すことになったんです。一人は体調が悪いのでヨガをやっていた方で、もう一人は二人のお子さんを持つ主婦の方だった。失礼だけれど、1年前までは無名でも、そうした人たちが、本を出したりすることで1年後全く違う展開になっているのを見ていて、自分も人生のコマを進めたいと思いました。

吉永:柚月さんはもともと文章にプライドを持ってしっかりした原稿を書くんですが、僕は実は、この人は天才編集者なんじゃないかと思っているんです。
 先のヨガをやっているイラストレーターさんは、現在のように超人気イラストレーターというわけではなかったのですが、柚月さんが「行ける!」と声をかけて、うちのサイトでヨガのマンガを書いてもらうことになりました。でも、最初はアクセス数が伸びませんでした。10回目ぐらいまでは、2000とか3000PVで。これじゃ、原稿料も払いきれないし、どこかで打ち切るしかないかと思っていたら、柚月さんがイラストの色数を減らしてみようとか、絵を単純化しようとか徐々に編集をしていって。そうしたら、15週目ぐらいからツイッターで大爆発、記事を出すたびに数万リツイート(RT)されるという大人気連載に化けました。
 そうなると、取材もされるし、他のサイトにも転載され、出版依頼も来る。出版依頼は7社から来て、その中の2社から本を出すことにしました。1冊(崎田ミナ著『自立神経どこでもリセット! ずぼらヨガ』/飛鳥新社)は今年1月に発売となったんですが、ツイッターで3万回とかRTされて、発売2週間で4刷になったんです。同じ作者で、3月にも『職場で、家で、学校で、働くあなたの疲れをほぐす すごいストレッチ』(エムディエヌコーポレーション)という本が出ます。
 タイトルなどは、普通、担当の編集者と作者で決めますが、柚月さんは作者から信頼が厚くて、タイトル決めの相談をされたりしているんです。ヨガのマンガはたまたま当たったのかな、と思ったら、もう一つ彼女が手がけた子育てしながらスケッチブックに食べ物の絵を描いている主婦のTamyさんの連載もヒットしていて。これも3社から出版依頼が来て春に書籍化されるんです。編集者として、「おかしい」ぐらいの嗅覚があるんです。

柚月:Tamyさんはインスタグラムのフォロワーがすごく多かった方で。おなかが空いていたとき「ハンバーグが食べたい!」と思ってインスタグラムを検索していたら、彼女のイラストが出てきて。それはもう食欲をかき立てられて、「この人と仕事をしたい!」って思いました。それで、イラスト中心の連載を始めたんですが、最初は、人気店のパンケーキを食べてきたとか、横浜の老舗カツレツ店に行ったとかいう内容で今一つPVが伸びなかった。そこで、食べ歩きじゃなくてレシピに振ったほうがいいんじゃないかと思い始めて。そうしたら、すぐにPVが上がってきたんです。

吉永:柚月さん本人は自分自身で書きたいと言っているんですが、編集者としての能力は群を抜いている。企画の方向性に信念があって、作っているものに対して真摯に向き合っているんですね。

柚月:真面目なんです(笑)。

吉永:彼女の歩いている道は理想的ですよね。でも、それは一つの形であって、すべての人にとって正解ではない。自分の人生を見つけるには、「自分はどうなんだろう。どうなりたいんだろう」と考えるところからスタートするしかない。柚月さんは週末も仕事をする人だけれど、やりたいことが仕事になったとして、土日も仕事して幸せかどうか。それは人によって違うでしょう。