「何のために働いているのかわからない」。そんなこじらせOLが主人公の小説『言い訳ばかりの私を変えた夢みたいな夢の話』を、本連載「才能がない人の夢のかなえ方」としてお送りしていきます。前回、自分へのクレームを乗り越えて、会社の新規事業に関わることになったヤグチ。上司から「クレーマーに会ってみるといい」とアドバイスをもらっていましたが……。

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【第十七回】編集者ひとりの新規事業

 私は新しくできたサイトの編集長になった。
 といっても、編集者は私ひとりしかいない。
 自分で原稿を書いたり、外部の人に原稿を依頼したりしながら、切り盛りしなければならない。
 私の書いた記事がヒットして、多くの人が読みにきてくれれば、「ファン同士のチケット交換サービス」のほうへと集客できる。
 これがうちの会社の新しいビジネスなのだ。
 私の書くマニアックな記事が、いつのまにか、会社にとって重要なものになりつつある。
 ほんの数カ月前なら想像もつかなかった状況だ。

 私は、編集長になったというプレッシャーを感じる暇もなく、仕事に追われていた。
 何しろひとり。自分がやらなければ、サイトの更新が止まってしまうのだ。
 新規事業戦略部の人に、「ほかにも担当者をつけてほしい」とお願いしてみたら、「収益があがるようになったら」という返事だった。
 つまり、今ががんばりどころ、というわけだ。

 2.5次元ミュージカルについてなら誰にも負けない、と思えるくらい詳しくならないとダメだ。
 人気シリーズの新作が出たら、劇場に足を運ぶ。公演のDVDもまとめて観る。
 ファンが集まるネットの掲示板も回って、マニアックなネタを拾う。
 記事の反響をチェックして、企画に活かす……。