捕鯨問題を扱った長編ドキュメンタリー映画「おクジラさま ふたつの正義の物語」が公開され話題を呼んでいる。監督は、ニューヨーク在住の佐々木芽生さん。捕鯨問題というと「難しそうだ」と捉えてしまいがちだが、実はテーマは「多様性」。佐々木さんは、映画を通して、「世の中には自分の考え方と全く異なる視点があるということを知ってもらいたい」と言う。所持金20ドルでニューヨークに渡り映画制作を始めるまでの話、国際的な映画賞を受賞した処女作「ハーブ&ドロシー」から最新作「おクジラさま」に込められた思いまでを聞いた。

前編「仕事選び失敗で過労入院 放浪先で見つけた新しい人生」

「世界一周の航空券で最後に着いたのはニューヨークでした」
「世界一周の航空券で最後に着いたのはニューヨークでした」

 東京からバンコク、インド、ロンドンと旅して、世界一周の航空券でニューヨークに着いたとき、ポケットに残っていたお金は20ドルでした。ニューヨークには知り合いがいて、彼に空港に迎えに来てもらえなかったら、私はホームレスになっていたかもしれません。でも、インドの経験があったのでお金がなくてもなんとかなると思っていました。

 ニューヨークというのは小宇宙みたいな感じで、世界のありとあらゆる人たちが集まっているんです。あらゆる人間、文化、価値観が、ぎゅっと凝縮されている。世界旅行をしなくても、ニューヨークにいるだけで世界が分かるというようなところがある。しかも、ものすごく包容力がある町なんです。

 英語が話せなくても、不法移民であっても、一歩その地に足を踏み入れたらニューヨーカーになれる。どんな人もその人らしく生きることを許してくれる場所だと思いました。誰もが自分らしく生きられて、頑張れば必ず頑張っただけプラスにして返してくれる。あんな町は他にはどこにもありません。

 それで、世界一周の東京行きのチケットは未使用のまま、ニューヨークに住み続けることになりました。

 ニューヨークで、パーティーに行ったりしていろんな人と知り合うでしょ。すると、みんな「What do you do?」、つまり「あなたは何をしているの?」と聞くんです。あなたは何ができるのか、何をするのか、あなたは誰なんだ、と聞かれ続ける。

 周りを見ていると、今は生活をするためにウエーターとかウエートレスをしていても、自分が本当になりたいのはダンサーだったり俳優だったりすると、「ダンサーです」「俳優です」ってみんな言うわけ。そういう人たちと会っているうちに、自分は誰なんだろう、何ができるんだろうというのをすごく考え始めました。