プロフェッショナルのチーズ専門家「フロマジェ」として活躍している村瀬美幸さん。もともとは、ANAの客室乗務員だった。子どもの頃から世界に憧れ、夢かなえた職を手放した理由は、自信のなさだったという。自分の存在意義に悩み、自問自答を繰り返しながら、興味に導かれてたどり着いたのがチーズの世界。「日本人がチーズの何を知っているの?」という完全アウェーで世界一のタイトルを手にするまで、はじける笑顔の裏に何があったのだろう。

◆フロマジェ、ザ チーズルーム アカデミー副校長 村瀬美幸さんインタビュー
第1回 夢の職に就けた…けど自信がない キャリア捨てたCA
第2回 CAからチーズのプロへ「世界2位では駄目と知った」
第3回 「何になるの?」と言われていたお稽古事で、世界一に(この記事)

チーズ学校の開校前、社長に内緒で大会にエントリー

村瀬美幸
全日本空輸株式会社での国際線客室乗務員、田崎真也ワインサロンでの講師、支配人などを経て、2013年4月に、チーズを楽しく学ぶ「ザ チーズルーム アカデミー」をオープンする。同年6月第1回世界最優秀フロマジェコンクールで優勝し、世界一に。日本チーズアートフロマジェ協会副理事長。著書に、「村瀬美幸のごちそうチーズクッキング」(草思社)、監修本に「10種でわかる世界のチーズ」(日本経済新聞出版社)などがある。

 それから私は2年間チーズ専門店に勤め、店頭に立ちました。「このワインにはどのチーズがいい?」などというお客様のご質問に合うチーズを提案し、「100gください」と言われたら、その場でカットします。チーズは、肉をグラム売りするのと違ってカットが一発勝負で、大会でのカットテストは、その技術を競っているんですね。質量は種類によって異なるので、このチーズならこれくらいで100gかなという感覚を身に付け、ぴったりに切れると、「やったー!」と思っていました(笑)。各国の大使館、ホテルやレストランなどへ出向いて盛り付けをすることも、とてもためになり、毎日の仕事が大会の実践練習になっていたんです。それなのに、目指していた国際大会が、突然資金不足で中止になってしまったんですよ!

 目標を失ってしまった私はしばらくチーズ店で働いていましたが、やがて、知り合った建築・空間デザイナー金子敏春の下で「ザ チーズルーム アカデミー」というチーズの学校を始めることにしました。オープンを3カ月後に控えて準備をしていたある日、私は「世界最優秀フロマジェコンクール」が開催されると知ったんです。2007年の大会で優勝したフランス人のフロマジェが、大会がなくなったことを嘆いて、若手のために立ち上げたコンクールでした。エントリー締め切りまであと1週間。私は社長の金子に黙って、それに申し込んだんです(笑)。

 審査が通って出場が決まったので、報告しないわけにはいきません。「世界大会に行ってもいいですか?」「え!? 大会っていつ?」「6月です」「5月にスクールオープンするのに、どうするの!?」私はこう言って説得しました。「世界大会に出場するだけでも学校のためになるし、もし賞が取れれば、なおいいんじゃないですか?」

「金子は、『それもそうだね』と、応援してくれることになりました」
「金子は、『それもそうだね』と、応援してくれることになりました」

 こうして、スクールのオープニングパーティーはやったものの、1カ月間はほぼ授業をせず、大会に向けた練習をしていました。しかも、「1位を取るための作戦を練ろう!」と金子も協力してくれたんです。王者フランスにも勝てるように、どの国の審査員が見ても圧倒的に突き抜けている作品を作ろうと、二人で策を練り始めたんです。