異業種との交わりで、変わっていった自分

 今度の大会は、これまでと違って個人出場です。課題は9つに増え、そのうち5つは「アーティスティックテスト」と名付けられた、盛り付けテストでした。「約50種類、総計20㎏ものチーズを使って子どものためにビュッフェを作る」とか、「鏡の上に彫刻をしたチーズを盛る」など、テーマが決まっています。

 これには、デザイナーの金子は強い味方でした。「これまで平面に盛り付ける選手が多かったのなら、立体的に盛ってみよう」と、まずは子どものためのビュッフェに取り掛かりました。人が見てきれいに思える黄金比を取り入れ、高低差をつけ、子ども目線でかわいくおいしそうに見えるように、そして審査員には「子どもが見たら楽しそうだな」と感じられるようなバランスに。こうした「見せる効果」は、それまでの私にはなかった発想でした。そして、金子と話すうちに、私の中からもアイデアが生まれてきました。「遊園地みたいに作りたい。お城や、それを守るネズミの兵隊も作りたい。山のエリアには、山岳地帯で作られる硬いチーズを置きたい!」

村瀬さんが実際に大会で作り上げた、子どものためのチーズプラトーという作品 提供/村瀬美幸
村瀬さんが実際に大会で作り上げた、子どものためのチーズプラトーという作品 提供/村瀬美幸

 異業種の人は、自分の知り得ない知識や技術を持っています。そうした人と交わることで、化学反応が起こり、新たなものが生み出されるのですね。「鏡の上の彫刻」という盛り付けに対しても、私は彫刻にばかり目が向いてカービングのレッスンを受けたりしていたのですが、金子は「鏡に映り込むことを想定して空間を持たせて盛り付けよう」と見せ方のアドバイスをくれたので、目からうろこでした。

 こうした準備を経て私にはすっかり迷いがなくなり、「楽しんできてね」と金子に送り出されて世界大会に臨みました。当日はとても楽しくて、でも集中はしていて、あの感覚はそれまでの大会では味わえなかったものでした。